Episode015 ソロマニア

 …――ソロマニアな俺の人生総括はソロ旅で決まりだ。


 つまり、


 人生での最後のソロ活動はソロ旅と心に決めたわけだ。


 ソロ旅とは、つまり一人旅だな。


 行き先も決めている。


 色々、悩んだが、その果てに、ここしかないと決めた。


 そんなソロマニアで一匹狼な俺は今まで、ありとあらゆるソロ活動を行ってきた。


 ソロと付くものは、ほぼ網羅してきた。ソロでカラオケ、ソロでの焼き肉、ギターのソロパート演奏(※ギターのソロ演奏とは、もちろん一人でソロパートだけを演奏したわけだ)などなど、思いつく限りのソロ活動を、たった一人でやってきた。


 そうそう。結婚もしていないぞ。


 それも、またソロ活動なのだといえばそうとも言える。


 ただし、


 ソロ旅だけはした事がない。単に機会がなかったのだ。


 ソロ旅をした事がないから言うまでもないのだが、ソロキャンプもした事がない。


 だから、ソロ旅が実現したならば、同時にソロキャンプも体験したい。そんな人生で最後のソロを締めくくるソロ旅。さて、では、一体、どこに行くのかという話になるのだが、キャンプもできるような自然豊かな場所でなければならない。


 遊園地や有名史跡などが在る場所は、極力、避けたい。


 行楽地では、宿泊が、キャンプと言うよりもホテルや旅館となってしまうからだ。


 それではダメなのだ。


 何故ならばソロキャンプも体験せねばならないからだ。


 そして、


 有名史跡などが在る場所は、観光地過ぎて、人が多い。


 せっかくのソロ旅が台無しになってしまう。だからこそ、自然が豊かでありながら、かつ有名にも拘わらず人が少ない穴場こそ最適解。そうやって候補地を色々あげてメモ帳に書き込む。人生で最後のソロ活動であるからこそ慎重になる。


 いく百もの候補地を書き出して、あれも違う、これも違う、と頭を悩ませてみる。


 ううん?


 なかなか、望む、絶好のポイントへとたどり着けない。


 そして缶ビールのステイオンタブを開けて一息入れる。


 シュワシュワとした弾けるような白い泡が飲み口から溢れてきて、慌ててすする。


 喉を鳴らして缶ビールを愉しむ。


 PCをつけてからソロ旅にうってつけの場所が、どこかにないかと検索してみる。


 やはり、遊園地などの行楽地、観光地などが羅列される。そんな場所ではダメなんだよなと後ろ頭をかいて独りごちる。マウスから手を離す。天井で光をたたえる古ぼけた蛍光灯を見つめる。じじっと一瞬だけ明滅してから俺に応える。静かに。


 そうか。


 と、俺の脳裏へと名案が浮かぶ。


 あそこしかない。人生で最後を飾るソロ旅の目的地は。


 遂に人生統括と言えるソロ旅の行き先が決まったのだ。


 そこは自然豊かで有名な場所。にも拘わらず、人は少ない。もちろんソロ旅を行う上での目玉もある。渡し船だ。今では観光地でもない限り、珍しいと言える渡し船が運航している。無論、そこは観光地ではない。だからこそ期待できる。


 しかも、


 渡し船で川を渡った先は風光明媚で百花繚乱な景色がお出迎えしてくれるという。


 うん。ここだろう、ソロ活動を締めくくるべき場所は。


 ぐぐっと音を立ててビールの残りを一気に飲み干した。


 それからの俺は、最後のソロ旅の為に準備を進めた。最後であるからこそ後悔がないようにと入念にチェックを行い無事に成功するようにと心する。心残りを一つずつ潰してゆく。時間をかけてソロ旅へと向かってゆく。逝く。そして、遂に……、


 ソロ旅を行う日が、やってきた。


 さあ、では、ゆくぞ、ソロ旅へ。


 俺はベッドで横なりつつ微笑む。


 周りには誰もいない。


 俺はソロマニアだから孤独は怖くない。一匹狼こそ生き様なのだと、また微笑む。


 隣にキャップセット。


 一緒に棺桶に入れて燃やしてくれと遺書を遺しておく。


 そうして静かに息を引き取った。


 そののち、旅立つ、あの世へと。


 俺のソロ旅が始まったのだ。三途の川原へ向けて……。


 その後、キャンプセットも無事にというべきか、遺書に則って一緒に燃やされた。


 人生最後のソロ活動を行い、あの世に旅立った俺。燃える器を見つめる。その顔つきは、自分で言うのもなんだが、とても満足そうに見えた。そして燃える器に向けて手を振って、ワクワクしながら、俺は、この世から徐々にロストしていった。


 人生最後のソロ活動を愉しみに。


 ここから、孤軍奮闘の冒険活劇な異世界転生などは始まらないので悪しからずだ。


 お終い。

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