新しい日常


「・・・よく寝てるな」

「何時間寝てくれるかなぁ」

「それはこいつらの気分次第だな」


赤ん坊用のベッドですやすやと眠る二人の赤ん坊。

名前はアイリスとフラム。

6月13日、夜の9時頃に産まれた双子である。

ちなみにアイリスが姉で、フラムが弟にあたる。


そのベッドを覗き見るのは他ならぬ両親であるイグニスとコメットだった。


もうすぐ誕生から一ヶ月になろうとする双子は睡眠時間が徐々に短くなり、3〜4時間の感覚で起きるようになってきた。

当然それを無視するわけにもいかないため、親はその対応で多少の疲れは出てくる。


なので"よく寝てくれ"と思うのは当然、なのだが・・・


「かなり表情出るようになったねー」

「お陰でこっちが気が抜けそうだ」


表情という概念が現れ始める頃であり、よく聞く"天使のような笑顔"も見られるようになった。

機嫌が良い時には"あー"とか"うー"とか声を出す時も。

イグニスもコメットも、見たり思い出しては笑顔になるというものだ。


「沐浴ももうすぐ終わりだなぁ」

「アルに作ってもらった赤ん坊用のグッズの出番がすぎたらどうするか考えるか・・・」


ベビーバスという赤ん坊用の湯船を使って身体を綺麗にする沐浴も、出番は生後1ヶ月まで。

後は大人と一緒に短時間だが同じ風呂に入ることになるため、ベビーバスは御役目御免となる。


群や知人に貸すというのも手段の一つだろう。

アルのお陰で長持ちするように作られているのだ。


「1ヶ月の検診は群でやるか。仲間に見せてやるにはいい機会だろ」

「あー確かに。セブンスに診てもらうのもいいけど、そろそろ外の空気を味わう時期だもんなー」


これまでは様子見半分、診断半分でセブンスが見に来ていた。

まだ1ヶ月に満たない赤ん坊が外気浴をするのは厳しいため、1ヶ月の間はホウプス家に住むメンツ以外はほとんど会えていない。


近況報告の手紙や、アルやウィレス等に伝言を任せていたりする毎日だったが、そろそろ顔くらいは見せに行くのもいいだろう。

特にイグニスとコメットの馴れ初めを知っている連中には感涙モノだろうから。


「ところでイグニス、俺の仕事は・・・」

「まだだろ。身体は全快じゃねぇ。第一俺たちが最優先で子どもを見る訳だからな」


母親であるコメットの体調は当然ながら完全ではない。

身体が小さいゆえの負担もそうだが、元々子どもを産むという行為自体が負担があるものであり、生後1ヶ月程度では早々戻るものではない。

無論、種族の違いもあれば、補助のために母体に魔法をかける内容次第で変化する可能性もあるが、コメット自身は人間に近いため違いを考慮する範囲にはない。


仕事にのめり込みやすいコメットだが、それを分かっていたため素直に頷く。

イグニスに話題を振ったのは確認に近い。


「・・・長かったのか短かったのか分かんないや」

「・・・確かに、最初に会った時を考えたらな」


お互い、相容れないと思った。

何処か似たような意地を張っていたけど、向かう先が全く違う二人だった。

他者の理屈を知らぬ存ぜぬと、自分の望む末路へ走るだけの二人だった。


それが、何の因果だろうか。

イグニスもコメットも、最終的にはこのようにお互いが向き合って、そして同じ方向を見るようになった。


それまで確かに長い時間を費やした。

けれど、今やそれが過去になってあっという間だったようにも感じる。

言葉に表すには、あまりに矛盾していて大切な時間だった。


お互い、零れた笑み。

下手に言葉にするのは、刹那いまを汚してしまいそうだが・・・ああ、それでも良いかもしれない。

彼らだけの時間なのだから、彼らだけで表していいはずだ。


そして呟いたのも、同時だった。


─────愛してる、と。

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