【2021バレンタイン】イグコメの部
「俺は甘いものは好きだけど、イグニスは違うからなあ。」
世間はバレンタイン。
当然のことながら、ホウプス家の面々も例外ではない。
アルは義理チョコを作って群の面々や、商売での客に配っている。
裏表があまりないサッパリした性格なので、余程のキ〇ガイでも無ければ義理だと一発で分かることだろう。
・・・本気にした人が何人轟沈したか数しれない。
マリアは可愛いことにうさぎ型のチョコを作り、いまさっき渡しに出かけたところだ。
特に他意もなく純粋な好意での事だろうが、可愛くて食べられないのでは無かろうか。
ウィレスはまさかの渡す側。いや渡されもするのだろうが、バラ型のチョコを作って出かけていった。随分手の込んだことをやり、ホウプス家の面々も感心していた。
さてさて、イグニスとコメットはどうなっているのかと言えば、二人とも今は家にいた。
コメットは胎児が育ってきていることからほとんど自宅待機であり、イグニスもコメットのそばにいて何かあった時の為に自宅にいる時間が増えていた。
今日のバレンタインも例外ではなく、リビングで本を読むイグニスと、キッチンで料理の練習を今日はお休みしてイグニスの為のチョコを作っていた。
スイーツに限れば文句なしの三ツ星並のものを作れるコメットだが、今回のチョコは甘くない。
ビターチョコなのだから当たり前だが、本人としては自信満々────とまではいかない。
「・・・ん、でもまぁ。大丈夫だろ。」
何やかんやで付き合いのいい彼だし、ちゃんと食べてくれると分かっている。
今回もきっと例外ではないんだろう。
「イグニスー、お茶にしよー。」
「ああ。」
本をパタリと閉じ、イグニスは飲み物の用意をするべくキッチンに向かう。
「ん、ああ。バレンタインか。」
「そうだぞー、忘れてたのか?」
「すっかりな。 チョコなら・・・コーヒーかカフェオレか。」
「カフェオレにしたらいいんじゃないか?お前に合わせて甘くないようにしたんだぞ。」
偉いだろ、と胸をはるコメット。
なるほど、随分気を使われたものだとイグニスは笑みを浮かべて頭を撫でてやる。
溶けるように笑うコメットに、やはりというかイグニスは癒しを感じるばかりである。
「ならカフェオレを用意しておくか。」
「じゃーリビングにチョコ持っていくぞー。」
流れるような役割分担。
飲み物の用意も慣れてきたイグニスはコメットの後ろ姿に頷き、二人分のカフェオレを用意するのだった。
「口にあうな。美味いぞ。」
「ん、なら良かった」
隣に座り、チョコを食べて満足気にするイグニスに、コメットは安心したように笑みを浮かべる。
オレンジ風味のビターチョコ。
チョコは甘いばかりではなく、そして口にあうならば美味いものだ。
コメットのスイーツ作りの腕前とあわさり、イグニスにとってはこれ以上なく贅沢だろう。
「コメットは・・・そうか、菓子は我慢か。」
「こればっかりはね。俺だけの命じゃないし。」
コメットの腹には双子の胎児がいる。
救われて以降、自分の生命を蔑ろにしなくはなったが、やはり子が宿ったことにより意識が大きく変わる。
そとても立派だし、子が産まれることの楽しみがあることを考えれば、それを守りたいものだが。
それはそれで、何処か勿体ないと思うから────。
「コメット」
「ん?────!?」
チョコを食べたあとに名前を呼び、コメットを振り向かせる。
その隙を当たり前のように見逃さずに、口付けにて唇を奪う。
「・・・苦いんだよばーか。」
「悪いな、ちょっとした甘やかしだ。」
チョコは苦めだが、やることがこれ以上なく甘い。
頬を赤くしたコメットはイグニスに寄りかかりながら精一杯の抗議をするが、誰がどう見ても甘えているようにしか見えない。
「・・・お返し、楽しみにしてるからな。」
「ああ、期待してろ。」
そんなやり取りをすれば、二人とも表情は笑みに変わって、何より甘いひと時を味わうのだった。
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