ショートシナリオ:犬と羞恥心
「ブラン、思ったんだけど。」
「?」
食堂。
ブランに噛まれて引きずられ、仕方なく一緒に昼食を摂ることにしたスノウ。
隣で座って食事をするブランに話しかける。
ブランはスノウの方を向き、肉を頬張りながら見つめる。
・・・純粋というか曇りらしい曇りがないというか。
とかく複雑ではなく、どちらかといえば単純なブランの目。
見つめるとこう、尻尾を軽く振る犬のようにも思える。
なんならそんな幻視すら・・・。
そんなことをスノウが口にした瞬間、ブランは噛みにかかるだろうが。
「ブランって、犬っ────待って、犬って呼ぶわけじゃないって。」
言わんこっちゃない。
スノウの口から犬という単語が出た途端、気配というか、圧が強くなった。
ただ質問があっただけなのだが。
ブランはスノウの弁解を聞いて、大人しく聞く体勢になる。
「ブランってあたしに犬って呼ばれた時だけは噛むな。」
「・・・ああ、そっか。」
「気がついてなかったんだ・・・。」
こやつ、まさかの自覚なし。
ブランは他の人物から"犬っぽい"と呼ばれることはあれど、まるで反応しなかった。
スノウはそれが気になって聞いてみたが、まさかブランはその自覚すらなかったとは・・・。
「・・・なんであたしだけなんだ?」
ならば、こう聞くのが妥当だろう。
自分だけが、と考えると大抵マイナスに向きがちな彼女だが、聞いてみないことには始まらない。
「・・・俺は人だから、そう見て欲しいんだ。スノウには。」
・・・解答は、至極当然だった。
ああ、そうか。
冗談とかまだわかる程、成長してないから"本当に犬のように見られている"と思ったのだろう。
「・・・スノウにとっては、俺は犬なの?」
本当にそう思ってるなら、そもそもこんな風に好きになってない。
考えてみれば分かることだが、ブランの立場で考えるなら、そんな分かりそうなことさえ、まだ分からないのだ。
そう思うと、申し訳なくなる。
「・・・ごめんね。分かってるよ、ブランが犬じゃないってことくらい。」
そりゃあ、当たり前だ。
ブランがスノウだから好きになったのと同様に。
スノウもまたブランだから好きなのだから。
「でもね。つい余計なこと言っちゃうんだ。
調子に乗ったり、恥ずかしくなったり。
だから本気じゃなくて、冗談なんだよ。」
そんなこと、言わなきゃわからないんだから。
それを聞いたブランは安心したように息を吐いた。
「・・・だからブラン、あたしこれからも犬とか言っちゃうと思う。ごめん。」
「ダメ」
「え」
この会話をみた誰かならば思うだろう。
"これ、許される流れじゃなかったの!?"
残念ながらブランはそうはいかなかった。
「なんか頭に来るからやっぱり噛む。」
「え、え」
「言いすぎたら、お仕置する。」
「え、まってまって。」
「朝まで────」
「わーわー!?」
なるほど、本気で犬とは思ってないのは、理解はした。
だがブランの解答はそれはそれとしてであった。
結局噛むし・・・詳細は伏せるがやる時はやる。
そんな事情をブランの口から出されようとしたため、スノウは大声で遮った。
「ブラン!?あのあのあの!」
「なに?」
「・・・出来れば、その事は黙ってくだしゃい。」
噛んだ。
思い出してしまったり、大声を出して視線を向けられたことに、ついに恥ずかしくなった。
事情を察せられてしまったとなれば羞恥で死にかねない。
「・・・可愛い。」
「・・・ひゃい──────!?」
訂正、スノウは羞恥で死にそうになった。
だってブランは"可愛い"の一言でキスしやがったのだから。
嬉しさと羞恥でキャパオーバーを果たしたスノウは気絶してしまった。
ブランは、何か果たしたかのように、少し誇らしげだったことを記しておく。
・・・少しの間、バカップル勢の一例として挙げられてしまったのは言うまでもない。
おまけ
「・・・うちは何を見せつけられてんでしょーねー。」
一番近くでみていたフロウ。
やってらんねー、という顔で勢いよくジュースを飲み干しながら一部始終を眺めていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます