ショートシナリオ:オムライスと図星



「オムライス出来ましたよー。」

「おー、流石マリア!あ、俺ケチャップやる!」

「どうぞー。」


夕飯時、キッチンから楽しげな声が聞こえる。

今日はコメットの希望でオムライス。

俺は楽しげな声を聴きながら、机に座っていた。


「あっ・・・あー・・・えー。

うん、ヨシ!」


何がヨシなのか分からないが、コメットは完成したぞと言わんばかりに俺の目の前に、オムライスを置いた。


「これ、イグニスの。」


・・・何か様子がおかしい。

やけにソワソワしているように見える。

首を傾げ、目線を下に落としてオムライスを見る。


「・・・なんだこれは」


恐らくケチャップで文字を書くアレだろう。

この際、コメットのことだからそれは良いのだが。

書いている内容が異質だった。


そう、ケチャップの文字は"すっきり"だった。


「何がすっきりだ。訳がわからん。」

「いやぁほら!他のみんなは上手く出来たからすっきりした!みたいな!?」


周りを見れば運ばれてきたオムライスにはそれぞれ名前が書かれてある。

つまり俺だけ名前ではないのだ。


「んだよそりゃ。」

「いいからほら、食べるぞ!」


それを合図に、全員着席。

挨拶をして、食べ始める。

当たり前のような時間だ。


「ん・・・。」


ふと、あることに気がつく。

"すっきり"という文字のうち、"す"と"き"が大きく、残り二つが不自然に小さい。

ケチャップで書いたのだから文字のバランスが悪くなるのは仕方ない。だから別に気にすることではなかったはずだった。

ただ、よりによって大きくなった文字を合わせると"すき"になるわけで。

メッセージなのではないか、と思うと苦笑してしまう。


「・・・なんだよイグゴリラ。」


俺が苦笑する様を見ていたのか、不審げに顔を覗くコメット。

せっかくだから、思ったことを言ってみることにした。


「いやな。まさか最初に"すき"と書いて、恥ずかしくなって二文字足したんじゃねえか、なんて思ってな。」


冗談まじりに笑いながら言ってみた。

"まさかー"とかそんな返事が来ると思ったが、返事がない。


まさか、と思ってコメットを見ると・・・


「っ〜〜〜〜〜!?」


顔を真っ赤にして硬直していた。


俺はそれを、ただ黙って見つめてからオムライスを食べ始めた。


「ち、違うからなぁ!?」


何も言っていないのに、コメットは慌てて声を張り上げて否定し始めた。


「その、みんなの顔を思い浮かべながら名前書いてたら、お前の時になんか、好きだから"すき"ってつい書いちゃったとか!そういうのじゃないからな!!」


語るに落ちるとはこの事か。

黙って食ってやろうと思ったが、その可愛らしい理由でこんな誤魔化しをしたと思うと、つい笑んでしまう。

それでも特に返事はしないが。


「きーけーよー!わーらーうーなー!」


横でコメットが抗議の声を挙げるのを聴きながら、ちょっとした大きな幸せを感じつつ、オムライスを食べ進めるのだった。








おまけ。


「・・・後でブラックコーヒー、用意しますね。」

「「ありがとう。」」


コメットとイグニスのやり取りを見ていたマリア、アル、ウィレスの視線は冷ややかだった。


嗚呼、オムライスが甘く感じる────。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る