第22話 熊人族の男



「なあ。リアの魔法で妹さんの病気を直してやることはできないのかな?」


「申し訳ありません。私の魔法は肉体の傷は治せても流石に病気までは……」


 ダメだったか。

 魔法を使って病気を直せれば平和的な解決になると思ったのだが……そう上手くはいかないらしい。



「しかし、病気を直すことのできる方法が1つだけあります」


「……本当か!?」


「はい。主さまの聖遺物を与えれば良いのです。主さまの魔力を以てすれば、どんな病気もたちどころに治ることでしょう」


「なるほど。その手があったか!」



 この世界では人間パワーに勝るものはない。

 なんといってもスライムを美少女に変えちまうくらいだからな。


 きっと病気なんて直ぐに良くなるだろう。



「しかし、個人的にこの方法はオススメができません。我々はあくまでアジトで身を潜めなければならない身。無闇に聖遺物を他人に与えると足がつく恐れがございます」



 リアの意見は尤もである。

 戦力が整っていない内に俺の正体がバレることになると、悪意を持った相手に襲われるリスクが増してしまう。



「すまん。リア。どうしても妹さんを助けたのだが……」



 無謀だということは分かっている。

 けれども、俺は日本で生活していた頃から『誰かに必要とされたい』と願っていたのである。


 俺の力で救える命があるのなら見殺しにしたくはない。



「……分かりました。そこまで仰るのでしたら情報工作については私に任せて下さい」


「出来るのか!?」

「ええ。他人に約束を守らせることを強制する『呪印』の魔法を用いれば可能かと。私の命に代えましても主さまの秘密は守り通してみせましょう」

 


 流石はリア!

 本当に最初に仲間になってくれたのがリアで良かったよ。


「もし良かったらこれを使ってみないか?」

 

 俺は髪の毛を1本抜くと、男に対して差し出すことにした。



「こ、こいつは……!? なんてスゲー魔力なんだ!」



 俺の髪の毛を受け取った男は目を丸くして驚いているようであった。



「……それを与えれたら妹さんの病気はきっと良くなると思う。だから強盗なんてバカな真似はやめろよ」


「……くっ。すまねぇ。俺の名前はアダイ。この森に住んでいる熊人族のアダイだ! いつかこの恩は返すぜ!」



 拘束から解放させてやると、熊人族の男は目に涙を溜めながらも感謝しているようであった。

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