第16話 人族の痕跡


「なんと面妖な……。この聖遺物は従来のものに比べて10倍……いや、それ以上の魔力が内包されているように見えるぞ!?」


「当然ですわ。この聖遺物は1万年前に生存していた人族が残したものではなく……現代を生きる人族が残したものになりますから」


「なんだって……!?」


 その言葉はカズールに未曾有の衝撃を与えるものであった。



「それは人族の生き残りが現代に存在するということか!?」


「さぁ。わたくしもそこまでは……。しかし、そう考えると月が破壊された理由についても推測を立てることが出来るのではないでしょうか?」


「う、ううむ。たしかに」



 太古の昔、人族が滅びた理由はその力があまりに強大過ぎたからだと言われている。

 彼らが争いあった結果、大地を焦土と化して、自然と衰退していったという。

 人族の絶滅後は、獣人・エルフ・ニューマンと言った新人類が生まれ今日まで文明を築いてきたのであった。



「騎士団長。遺跡の探索ですが……引き続きわたくしに任せては頂けないでしょうか?」


「む。しかし、調査の期限は今日までに指定したはずだが?」


「はい。ですが、個人的に気がかりな点がありまして……。部下は必要ありません。一月ほど時間を頂けないでしょうか」


「…………」



 ロゼッタの真剣な眼差しを目の当たりにしたカズールは心の中で溜息を吐く。

 付き合いが長いカスールは、ロゼッタが1度決めたことはテコでも曲げない頑固なタイプであることを知っていた。



「分かった。後のことはお前の好きなようにするがよい」


「……ハッ。ありがとうございます!」



 一礼すると、ロゼッタは足早に神殿を後にする。



(待っていて下さいまし。お姉さま……!)



 リア率いる第1調査隊は、記憶の上では既に全滅したということになっている。


 だがしかし。

 遺跡の中にリアの死体は見つけることが出来なかった。


 ロゼッタは世界中の誰よりもリアのことを尊敬していた。

 良家の令嬢に生まれたワガママ娘に過ぎなかったロゼッタが今の地位にまで上り詰めることが出来たのは、偏にリアの指導があってこそである。


 誰よりも気高く、強かったあの人が死んでいるわけがない。


 もしかしたら遺跡探索任務で怪我をして、どこかで体を癒しているという可能性も考えられる。


 

(わたくしが絶対に貴方のことを見つけてみせますわ……!)



 決意を新たにしたロゼッタは、遺跡周辺エリアの探索を開始するのであった。

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