第4話 決意

「となると何だ……。俺は異世界に召喚されたっていうわけか?」


「……私も俄かには信じられません。しかし、少なくともヨウジさまの知っている世界と私たちの住んでいる世界が全く別物だということは確かのようです」


 リアの説明によると、俺が今いる世界はドラゴンなどのモンスターが存在しているのだという。


 ここまではいい。

 剣と魔法のファンタジー世界に召喚されるのは、小説なんかを読んで憧れていた展開の1つである。


「……で、この世界では俺のような人間は、伝説的な存在になっているというわけか」


「はい。ヨウジさまのような人間さまは、私たち人類にとって『最古にして最強の種族』として知られています……。その存在は絶対で多くの宗教で信仰の対象になっている程なのです」


「…………」


 この部分に関しては、サッパリとイメージが浮かばない。

 どちらかというと人間よりもリアのようなエルフ族の方が、高貴な印象があったんだけどな。 


「もう1度言います。ヨウジさま。貴方の存在は、ここアーテフィアにおいては絶対です。事実として私は……人間さまが残した髪の毛1本で信じていた部下に裏切られたのですから」


「……そうか。それは辛かったな」


 おのれ……猫耳のオッサンめっ!

 こんなに可愛いエルフ耳の少女を裏切りやがって!



「なあ。リア。1つ疑問があるんだけど……俺はこのままこの世界で生活して大丈夫なのか?」



 ちょっとばかり……嫌な予感がする。


 考えてもみろよ?

 この世界は人間の髪の毛1本で信頼していた部下に裏切られるところだぞ?

 

 体の一部でも大騒ぎしているのに、生きた人間が街に出ようものなら一体どうなってしまうのだろうか。


「いいえ。もしヨウジさまの存在が世間に知られるようなことがあれば……」


「知られるようなことがあれば……?」


 鬼が出るか蛇が出るか。

 まあ、元を辿れば異世界召喚の時点で既に非現実的なことなんだ。


 今なら大抵のことでは驚かない自信があるぞ。



「ヨウジさまの力を巡って世界各国で戦争が始まるでしょう」



 俺を巡って人類滅亡の危機!?

 予想の斜め上をいくリアの発言に対して、俺は底知れない衝撃を受けていた。


「どうしてそんなことに……?」


「ヨウジさまの力を手に入れれば世界を牛耳ることすらこと可能となるからです。アーテルフィアにおいて人間さまの体の一部は『聖遺物』と呼ばれ、戦略兵器級の扱いを受けているのです。

 生きた人間の存在が確認されるようなことがあれば……地上はたちまち戦火の渦に飲まれる可能性が高いです」


「…………」


 なんていうことだろう。

 言っていることはギャグにしか思えないが、リアの眼差しは真剣そのものであった。



「……リア。教えてくれ。俺はこの世界でどうやって生きていけばいんだ? 出来ることなら俺は無用な争いはせずに静かに暮らしていきたいんだけど」



 もとの世界では社畜生活を送っていたからな。

 地球に対して特に未練があるというわけではない。

 

 異世界で第二の人生をスタートできるのならば大歓迎である。


 しかし、流石に世界戦争の渦中に投げ込まれるような事態だけは勘弁願いたい。


「1つだけ方法があります」


「……本当か!?」


 やはりリアは頼りになる。

 迂闊に外にすら出ることのできない状況を考えると、とにかく今はリアに頼るしかないだろう。




「ヨウジさま。貴方が自らの手で安住の地を築き上げるのです!」




 意外な言葉を受けた俺は一瞬、自分が何を言われているのか分からなかった。


「えーっと……。それはどういう……?」


「順を追って説明いたします。この世界で人間族は信仰の対象となっているのは前に述べた通りですが……同時に私の部下のように人間さまの力を悪用しようとする輩も多く存在しているのです。

 ですから外部からの脅威に対応するべく……拠点を構え、腕の立つ配下を揃えて襲撃に備えるのです。それ以外にヨウジさまが安心して生活を送る術はありません」


「……冗談だよね?」


「いいえ。冗談を言っているつもりはありません」


 リアはニッコリと微笑むと、地面に片膝を突いて忠誠のポーズをとる。



「ヨウジさま。貴方が望まれるのであれば私は此処に……貴方の部下として永遠の忠誠を誓うと約束します」



 色々と疑問は残るが……詳しいことは後で聞くことにするか。


 リアのように可愛い女の子が仲間になるなら、安住の地とやらを築いてみるのも悪くないのかもしれない。

 元々、こっちは現在の生活に辟易して常日頃から『誰かに必要とされたい』と願っていたのである。



 そう考えた俺はリアと一緒に生活を送ることを決めるのであった。

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