第9話 乱パ キタ━━━━ヽ(゜∀゜ )ノ━━━━!!!!

ドゥンドゥンと低いビートが部屋の地面から響くように鳴っている。

超高層マンションの最上階。

明らかに住む世界が違う場所に連れてこられ、立ちすくむ5人。


僕( むっつり)、

岡田( 天然)、

新堂( イケメン)、

渡部(キョロ充)、

佐々木(委員長)。


窓の外を見ると、日が暮れて星が瞬き始めている。

今日は転校生の歓迎会で、柳の都合が合わないために昼ではなく、夜に夕食を一緒に食べに行くということにして(まぁ真っ赤な嘘というわけでもない)、家族の了承を取って、今日、土曜日の夕方から集まり、ここに来た。



「みんな緊張しないでー⭐︎

この部屋に住んでる人、アルファなんだよー!

しかも、このマンションのオーナーでもありまーす!」


キャハッと柳がはしゃぐ。

すごい人脈だな。

ナチュラルオメガの繋がりってどうなっているんだろう?


渡部が期待にソワソワし始めるが、

自ら動き出す勇気はなさそうだ。

渡部は黙ってジッとしていれば、

まぁまぁ顔もスタイルも良いのだが、

なぜが挙動言動に残念さがあるのは、なぜだろう。

実は渡部、テストの成績も良いし、忘れ物もしないし、3人の弟妹の面倒をしっかりみる良いやつなんだけどな。


新堂は最後尾にいる僕の前で、早速、可愛い子の物色を始めている。

あ、あの金髪の子が好みですか?

今、目配せしたでしょ?

あー、向こうも満更でもなさそうに、あひる口の先でチュッて軽く投げキッスしてたよ?

軽く遊ばせた茶髪が似合うのはイケメンの特権。

羨ましくはない。ただ憎い。


佐々木は冷静で、スッと美しい佇まいで、長い黒髪のポニーテールをくくり直している。

弓道部の練習があったのか、大きなケースを持っている。服は私服だ。

凛とした雰囲気は、弓を構えた時に凄味を増すのだろうと思う。

僕は密かに、彼女の群れない硬派な態度に好感を持っている。

強がるわけでもなく、卑屈なわけでもなく、一人を特に気にしない姿は、

オメガ仲間を求める僕には新鮮で、格好良く見えるのだ。


柳の隣に並んでいるのは岡田。

イメージ通りの爽やかな私服。

陸上部の練習があったはずだから、岡田もわざわざ着替えて来たんだろうな。

きっと岡田なりに頑張ったに違いない。

普段、付けもしないシルバーアクセを付けている。



岡田は、柳のこと、好きなんだろうなー。



微笑ましいような、心配なような。

岡田のかーちゃんになった気分だ。




「ヤナちゃん、待ってたよ」


爽やかな笑顔とサッパリした出で立ちの男性が現れる。

へぇ、若そう。30歳になってないかもしれない。

この歳で、マンションオーナーか…。

アルファおそるべし。


「こちらはヤナちゃんのお友達かな?

こんばんは、楽しんでいって」


オーナーはにこやかに笑って、僕らに挨拶する。

チャラチャラした人物を予想していたのに、とても紳士な対応に驚く。

柳はウフフと笑いながら、みんなを紹介する。


「天野さーん、今日はお招きアリガト⭐︎

この子が岡田くん。

それから、新堂くんと渡部くん。

こちらは佐々木さん。

あと、こっちはサットゥ!」



一同、ペコっとお辞儀する。



「ヘイヘーイ!柳姫、待ってたよーん!

はいっ!デトックスティー!

みんなも飲む?」


いかにもなチャラさを全開にしたアラサー男性が割って入ってくる。

両手にはショットグラスを器用に6個持っている。

ガラスにはターコイズブルーの炭酸水のようなものが入っていて、ハーブが添えてある。




デトックスティー?




ハーブが目に入り、警戒心が湧く。

柳が業界人の隣に回り込み、チラッとこちらを見ながら、業界人の耳元で


「今日は、ね」


と囁く。


「わーお、未成年がいるのかー!

私服じゃ分かんないなー!

じゃあ、これはおあずけー!!」


ハハっと笑いながら、業界人はそそくさと場を去る。


酒だったか?

ウェルカムドリンク的な?


周りで配られているデトックスティーと言われた青い液体を改めて見る。

確かにカクテルのように見えなくもない。


「俺ら、大学生に見えたのかな?」


渡部がはしゃぐ。

新堂はフフンと自信ありげに鼻で笑う。



屋内を見渡すと、

最上階部分を全てオーナーだけの部屋に使っているだけあって、猛烈に広い。

人生で初めてマジのシャンデリアを見たし、マジで壺を飾っているのも初めて見た。

大きな窓ガラスが壁にはめ込まれていて、夜景を独り占めした気分になる。


出席している人も多い。

立食パーティ形式で、

みな、好きなように動き回り、食事をしたり、話をしたりしている。


奥には、ダンスフロアがあって、さっきの低音のビートが流れている。

DJがノリノリで演奏して、盛り上がっている。


「俺、あっち行ってくる」


新堂がダンスフロアを指差して離れる。


「俺も!」


渡部がちゃっかりくっついていく。

君の名は、コバンザメ。


新堂がさっきの金髪の子の元へまっすぐ向かい、早速誘っている。

すごい行動力。



岡田は先ほどの天野さんと話している。

天野さんがアルファと聞いて、岡田がどんな反応をするか心配していたが、

天野さんが学生時代に陸上部に所属していたエピソードなどを話し始めると、

二人はすぐに打ち解け、談笑している。


僕は所在なさげにブラブラ壁にかかっている絵画を見出す。


どうしたもんかなー。

土曜日とはいえ、夜だから、親のことを考えると、夜の9時には家に帰りたいところ。

あと2時間弱。



ジッと様子を窺っていた佐々木さんは、岡田の隣で、天野さんの話に相槌を打っている柳にツカツカと近寄り、腕を引っ張る。


「話したいことがあるの」


彼女の目は真剣そのものだった。

柳は佐々木さんの顔を見て、コクッと頷いた。


「天野さーん、鍵貸してー⭐︎」


天野さんはジャケット内ポケットに手を入れ、一枚カードを取り出す。


カードキー?


柳はカードキーを持って、佐々木さんと別の部屋へ移動していってしまった。





ちょっと!!

バラバラにならないでくれーーーーー!


何が起こるか分かったもんじゃないんだぞーーー!





どうやら、広いフロアには廊下で繋がったさまざまな部屋があるようで、人の往来が激しい。

今やって来た人、帰る人、別の部屋から戻って来た人、別の部屋へ行く人。



ダメだ、学校の参加者を全員確認なんて出来ない。

どうな事件が起こさないでくれ。



出入りする人々を観察していると不思議なところが見えてくる。


ひとつめは、

今までの人生でオメガに会ったこともなかった僕でも、オメガが誰か分かること。


白いホットパンツに、前がボタンのシャツ。

素足にスニーカーやヒール。

髪は明るい色に染めているか、生来の薄い色。


シャツの色や髪型はそれぞれだが、

まるで制服のように似たような格好をしている人達がいる。



乱暴な言い方をすると、「淫乱なオメガ」って感じだ。


いや、言い過ぎた。

流行のファッションメイクをするJK集団って感じだ。

「私たちは流行に敏感なモテモテさんよ」

と承認欲求をチラつかせている。

結局は金太郎飴みたいに、個性をぶん投げて、流行と"同じ"になっているだけなのだが。



うーん、インスタすきそうだな。



そんなホットパンツに声をかける人々。

ホットパンツはニコニコ返事をしたり、相手にしなかったり。

夜のバーってこんな風に、目当ての子を口説くんだろうな。



そして、ふたつめに不思議なことは、

デトックスティーを持った人は、別の部屋へ案内されていること。





完全に怪しい。






DJブースの影にある小さな扉の奥へ、デトックスティーを持った人が消えていく。

とりあえず、あそこに行こうとしたら止めよう。




特に新堂渡部コンビ。




佐々木さんは、別のドアから出たから、きっと違う部屋に案内されたのだろう。

柳は男にしか興味なさそうだし、多分、大丈夫だろう。





たぶん。






なぜか出席者に遠巻きにされている僕は、

すっかり壁の花、というより、

苔みたいに壁に張り付いて、

みんなを見守ることにした。

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