第8話 オメガの愛は信用できない

チュッチュッと


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部長は静かに、立ったまま会長を見下ろしているが、


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会長を引き剥がす。


「痛っ!」

苦痛と失望に、会長の顔が歪む。


「ペニスを咥えて、気色満面とは。

体は正直、とはよく言ったものです」


軽蔑した表情で、部長は静かに罵る。


「誰でもいいわけじゃない!」


前髪を掴まれたまま、会長が反論する。


「そうですね、アルファ限定。

中でも、運命の番が良いのですよね。

オメガの選り好みは、殊更酷いものです」


「違う!何度言ったら分かるんだ!!

俺は!お前が欲しいんだ!!」


会長は先走○を垂らしながら、部長への愛を告白する。




「そう言って、僕のオメガの母はベータの父と結婚し、


僕を産んで間もなく、

母は運命の番を見つけて、








私と父を捨てました」






部長の顔からは感情が、目からは光が無くなり、

まるで死んだように表情が動かなくなった。


「俺はそんなことしない!

ずっとそばにいる!

絶対だ!!


だから、別ればかり考えるなよ!

ヒートが起きる度に、

俺は!俺は!不安で堪らなくなる!」


会長は必死に話す。

だが、部長の表情は変わらない。







「オメガの愛など信用できない」







部長の言葉に、会長はまた涙を流し始めた。


「でも、俺はオメガで、変えることなんか出来ないじゃないか。

俺にはお前しかいないのに!」


赦しを乞うように会長が部長に手を伸ばす。

バシッと部長はその手を払う。




「勘違いしないでください。

愛は無くとも、セ○クスは出来るのですよ。


オメガだけで無く、ベータも!!」






部長の言葉が、あまりにも僕の胸を抉る。

僕は思わず耳を塞いで、気付かれないように準備室を出た。


だから、ドロドロしたのはいらないんだよ。


気楽にベータの中で、フワッと生活して、

急に刺激的な出会いがあって、

たまにちょっとエロくて、

楽しくて。







オメガでも、恋したいだけなんだよ。






準備室から駆け出したのはいいが、

どんどん気が重くなり、しまいにはトボトボと亀のような歩みになる。




オメガの愛は信用できない。




それは差別だと思うけど、

自信を持って違うとは言えない。


体が二つ折りになりそうなくらい、顔が下に向く。

廊下のタイルをひとつひとつ数えて教室へ向かう。


廊下のタイルってさ、八個ごとに微妙に濃い色のタイルが一個挟まっているって知ってた?

何度も数えてるから、僕は知ってる。




登校してきた生徒の間をフラフラと歩いていると、

教室のドアが見えてくる。

柳の笑い声が漏れ聞こえてきて、

あぁ、とりあえずは楽しそうな雰囲気で何より、

と静かに安堵が広がる。


これ以上、荒れた状況は御免だ。




キャハッという柳の笑い声とみんなに話しかける声。




「そうそう!ヒートが来ちゃったから、

パーティしようと思ってー!

みんなも来るー?」




教室に入った途端に耳に入った柳の言葉に、

耳を疑うと同時に、

ガバ!と僕の顔が上がる。



…おい。


柳、お前、今なんて言った?




僕は、今、さっきの


「オメガの愛は信用できない」


の一言に深く傷ついている最中で、

今一度、オメガというものについて真剣に考えたい。



そっと一人で暗い部屋の隅で三角座りをしたい。



一方、

お前はパーティの話をしているわけだが、

あれか?それって、乱パの話か?

ナチュラルオメガの鎮静祭ってやつか?


抑制剤も飲まずに、ハート起こして、

不特定多数とアンアンハァハァするやつだな?



いつもなら「うらやまけしからん!」と言うが、

今日は!さっきも言った通り!





僕は三角座りデーだからな!





僕はオメガの純愛について考察中なんだよ!

なのにお前は性欲ばっかり押し出してさ!

(いや、僕も普段はそうだけど)

そんなんだから「オメガの愛は信用できない」って言われんだよ!!


大体、岡田はどうしたんだよ?!


岡田で我慢しとけよ!

昨日のイチャラブセ○クスは何だったんだよ!!



岡田も岡田だ!

ニコニコ話聞いてんじゃねーよ!!


お前、ジュースと白髭フライドチキンとケーキが出てくるパーティだと思ってんだろ!!







出てくるのはチ○コだ、バカ!!







ヒートとパーティとかけまして、


鎮静祭とよみます、


なぜなら、どちらも乱交するでしょう!!




分かったかーーーーー!!!





僕は教室に入り、ズンズンと柳に歩み寄る。


「や、柳くん、その、教室で、ね、何話してるの?」


カミカミなのは仕方ない!


「あー、サットゥ!

なになにー?サットゥも興味津々ー?」


柳がニヤニヤ上目遣いで訊いてくる。


確かに普段の僕なら多角的に興味津々なんだが、

今回に限っては、

教室でそういう話は良くないのではないか?という忠告だ!





「キャーーーー、もぉサットゥ!!」


女子がキャッキャし始める。

あー女子は大体分かってんな。

鎮静祭のこと知ってる。

ネットで調べただろ、間違いなく(僕もネットで調べた)。


そしてソワソワニヤニヤしてる男子、

お前らも調べたな。

そして、期待してるだろ、



乱パを!!





僕もそうだった!!





だがしかし、さすがに乱パへクラス総出はダメだ。

いや、一部でもダメだ!!



「俺、行ってみたーい!!」

「キャーー!ちょっとぉー!!」

「でもヤバくね?!」


僕の懸念をよそに盛り上がるクラス。


「良く、ない、ですっ!!」


さすがの僕も声のボリュームを上げる。



「ちょっと待ってよー!

みんな何考えてンのー、大丈夫だよー!

ボクの仲良しオメガ&アルファとご飯食べるだけー」


柳が違う違うと両手を横に振りながら話す。


「アルファ!テレビでしか見たことない!!」

「なに、どういう人脈?!」

「すげー!!」


一層、盛り上がるクラスメイトたち。


「うふふー。気になるでしょー?

都合あう子だけでも、おいでよー」


無邪気に笑う柳はあどけなく、天使のようだ。

普通なら、信頼するだろう。

じゃあ行こう!となるだろう。

実際、クラスのみんなも行く気になっている子がいる。



でも、こいつ、

転校初日に岡田食ってんだよなー。



あやしい。

嫌な予感がする。




「えーどうする?」

「私、塾あるから無理ー」

「オレは行こっかな!」

「お前、絶対ヤリ目!」

「ちげーよ!」

「俺は彼女いるからやめとく。行ったのバレたらヤバそうだし」

「ファーーー!リア充爆発しろーーー!!」



朗らかな雰囲気ではあるが、

意外に清く正しくビビっている人が多く、

パーティ参加者は少なそうだ。


柳を見ると、参加者の少なさにガッカリするわけでもなく、ニコニコしている。

もしかしたら、今までも学校のクラスメイトをパーティに誘っては、低い参加率だったのかもしれない。



最終的に参加者は柳以外に四人。

岡田はもちろん、

キョロ充チャラ男の渡部(実は真面目)、

イケメンヤリチ○の新堂(本当にイケメン)、

クールビューティ学級委員長の佐々木(唯一の女子!)。



心配すぎるっ!!!


クラス委員長の佐々木さんがいるから大丈夫そうに見えるけど、

ヤリチ○新堂が好き勝手やって、渡部も金魚のフンみたいに新堂にくっついて、ハメ外しそう。


佐々木はどちらかというと寡黙な硬派タイプだから、新堂と渡部がタッグを組んで詭弁強弁を捲し立てたら、二人の暴走を止められないだ。


対等に話せるのは岡田なんだろうけど、たぶん岡田は柳しか見えてないだろうし。



あー、絶対に問題が起きる。

そんな未来しか見えない。


あーくそっ!


こんなタイミングでなければ!

もっと楽しい気分で言えるはずなのに!

いや、こんなタイミングかつ気分だからこそ、後ろめたい気持ちなく宣言できるのか?!


ああ、でも、仕方ない。








「ぼ、ぼ、僕も!い、いこっ、かな!」








えーーーーーーーー!とクラスがどよめく。


だって皆が心配だから、と僕はモゴモゴと呟く。


「サットゥ、そんなに童貞捨てたかったんだね」

「大人の階段登っちゃうのかー」

「大事にとっておけば、魔法使いになれるんだよ?」


哀れみの目で、クラスの皆が口々に好き勝手なことを言い出す。




やかましいわ。





確かに童貞だが、今回は見過ごせないから仕方なく参加するんだよ!(いやほんとに!)


柳はみんなの話を遮って話出す。



「だから怪しいパーティじゃないってばー⭐︎

大丈夫!サットゥの童貞はボクが守ってア・ゲ・ル!」



キャーーーーっと、また女子が盛り上がる。



いやいや、大きなお世話です。

さらに言うと、

今回のパーティに求めてはないけど、






失いたいのは処女です。






お間違い無く。

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