第7話 生徒会長との邂逅に喜ぶも束の間、またエロ展開の気配がするので全裸待機

「おはようございます」


勇気を出して挨拶をしてみるが、

恐らく僕の声は風と共に去ってしまったと思う。



今日は風が強めかな。

(声が小さいわけではない、たぶん)



校門を通り過ぎようと、生徒会のメンバー前を通る。




「あ、サットゥ!」




後ろから生徒会長が僕に声をかける。

染めてもいないのに綺麗な亜麻色な髪がなびく。


オゥマイ王子…!!


僕の名前を呼んでくださるのですか…!!



「美術部長に生徒会室に来いって伝えてもらえないかな?

夕方の部活のときでいいから!予算の話をしたいんだ!」


片手を口元に当てて、風に負けないように大きめの声で話す。


フワッと笑うお姿、素敵でございます、王子。


「分かった」

と返事をしたかったけど、どうせ聞こえない気がして、


頭をブンブンと上下に振った。


「ありがとー!」


笑顔で手を振る王子。


コンサート会場でアンコールの後、

ありがとー!と手を振るアイドルに、

切なくときめくファンの気持ちが分かった気がする。






抱いてくれ!!!






だめだ、昨日の一件で、

そっち方面の思考しか働かない。




てか、どうしよう。


岡田と柳を見るのが気まずい。

覗いてしまった(むしろ覗くことになるだろうと確信していた)ので、申し訳なさが先に立つ。


やだなー、

岡田と柳がイチャイチャしてたら。


アンアンハァハァ現場を見ただけに生々しい。

(なら見に行くなよ、と自分でも思う)


いや、むしろ柳が

「は?一回ヤったくらいで彼氏面しないでよ。

セフレだよ!セフレ!」

と岡田を突き放してたらどうしよう。




THE 修羅場。




クラスの雰囲気が死ぬ。

やめてくれ。


急に気が重い。

教室に行きたくない。


足が勝手に美術室へ向かう。


いや、ほら生徒会長に頼み事されたし。

美術室に部長いるかもしれないし(朝早いけど)。

誰もいないならそこでサボろうとか思ってないし。



うんうん、と自分に頷きながら、さっさと移動する。



美術室のドアの窓が薄暗い。

電気がついていない。

人の気配もしない。


ワー、残念ダナー、部長いないナー(棒)


ウキウ、じゃなくて、ガッカリしながらドアを開ける。



薄暗い広めの部屋が、シンっと静かに僕を迎える。




いいーーー!!

誰もいない美術室って風情あるよなーー!!

絵具の匂いとか、石膏像とか、よく分からん何かとか。


あー、ここで深呼吸するだけで、今日一日を終えたい。






「何をして居るのですか」


うぉっ!と肩をビクつかせながら、部屋の隅を見る。

男子生徒の影が見える。


隅からのそっと出てきた人物は、

長めの黒い前髪を垂らし、ヒョロヒョロの白い長い腕をダラっと下げて、割と白目の部分が広い目をギョロっとこちらに向けている。


出た!部長!!


「い、いや、あ、会長…生徒会長に、れん、連絡、を、頼まれて」


部長の気配ゼロだったー!!!

変な独り言とか言わなくてよかったーー!!!


「嗚呼、予算の話ですか?

この前も今日の放課後って伝えてきてたのに。

急勝せっかちですね。

態々わざわざ、有難う御座います」


ガクッと首が落ちたようなお辞儀をして、

部長は出していたキャンバスに向かって、絵を描き始める。


ゾンビと貞子を足して割った感じな人だよな。

陰な雰囲気にシンパシーを感じる。


「あ、美大、志望…でしたね」


部長のデッサンがチラッと見えて、話を振ってみる。


「難しいとは思いますが、挑戦せずして後悔したくは無いのです」


ボソボソと話しながら、鉛筆を動かし続ける。



あ、これ僕、邪魔な感じだ。

いたらダメなやつ。



もう少しゆっくりしていたかったけど、

さすがに受験の邪魔はしたくないので、

「ではこれで」と言って静かに美術室を出る。


そのまま静かに、隣の美術準備室に忍び込み、

チャイムが鳴る直前まで引き籠ることにした。


大小様々なお古のキャンバス。

棚いっぱいに乱雑に置かれている。

あと、画材とか工具とか、何か分からんのとか。

埃っぽくて、準備室も暗い。

カーテンは半分だけ閉められていて、

カーテンに積もった埃が舞わないように、

何年もそのままになっている。


薄汚れたスツールに腰掛ける。


あーーーーーーー

このまま逃げていたい。


逃げちゃダメだと三回呟く暇があるなら、僕は逃げる。

でもなー、教室には行かないとダメだよなー。

悶々としていると、


ダダダダダッ


足音が聞こえる。

廊下は走ってはいけませんよー。

僕は先日、走って人にぶつかって最悪な出会いをしましたよー。



ガラッ!


勢いよく隣の美術室のドアを開ける音がする。





「いた!!」




喜びに弾む声。


ん?この声…


「居ますよ。毎朝居るの、知って居るでしょうに」


部長の返事。


「朝、用事があったから間に合わないかと思った!」


全力で走ってきたのか、ハァハァと息切れしている。

朝の用事って、挨拶運動のことだよな?


「今日は放課後に会う取り決めだったのでは?」


「少しでも時間があったら、会いたいじゃないか!」


「そんなにはやらずとも、ちゃんと放課後に、私は待って居ますよ」


そぉーっと、僕は準備室の小窓から、隣の美術室を覗く。




「俺は!お前が!心配で堪らないんだよ!」




ドンっと教卓を叩いて、大声を張り上げていたのは、




やっぱり生徒会長ーーーーーー!!!




うっすら汗をかいたお姿、素敵でございます!!

俺からのお前呼び!

いつもの品行方正王子からの腹黒王子!!

オゥマイ王子ーーー!!!




で、

何だ、この状況?

予算の話は放課後だよな?





部長がフゥと小さくため息をつく。

「情緒不安定な理由は私ですか?」


「それは!」

生徒会長が言い淀む。


「ヒート、気付いて居たんですね」


「当たり前だろ!」


たま今一イマイチ気付いていない時も有る癖に」

フフっと部長が嘲笑う。





ねぇ、いま、ヒートって言った?





生徒会長は真っ赤な顔をして、

部長の胸ぐらに掴みかかる。



部長の胸ぐらを掴んだ生徒会長は、

立った状態で、壁際に部長を追い込む。


部長の方が背が低く、生徒会長が部長を上から覗き込むような姿勢になる。


「人の気も知らないで!」


上から睨みつける生徒会長。





ファーーーーーーーーー!!

ゾクゾクするぅーーーーーーーー!!!





「人の気?る気の間違いでは?」


部長もフンっと軽蔑したような目を会長に向ける。


ギリっと歯を食いしばって、

会長は強引に部長にキスをする。



「私は君の性欲処理機関では無いですよ」


「違う違う違う!!」


普段の会長からは想像できないような勢いで、

会長は語気を強める。


「何も違う事など無いでしょうに。

私は君の性欲の捌け口でしかない」


暗い目をますます暗くして、

部長は自分のズボンのベルトを外し始める。



「違う!俺はこんな事をしたくて来たわけじゃない!」


「でも、もう我慢出来ないのでしょう?」


部長は下ろしたズボンから左足を引き抜き、左足の膝でグリグリと会長の股間を刺激する。


「ふっ…!うぅ…!」


会長が強張った顔をして、声を殺す。


「困った人です。

言葉と体が全く一致していないじゃないですか。

そうやって、運命の番が現れたら、

貴方は私を捨てて、快楽に溺れるのでしょうね」


部長はなおも会長の股間をグリグリと虐める。


「う…!お前はっ!なぜ、いつも…別れの話、ばかり…!」


息を荒くしながら生徒会長は手を強く握りしめる。






ねぇ、いま、運命の番って言った?





僕は美術室の二人を覗きながら、

準備室の窓のへりをギュッと掴む。


今回は全く出歯亀するつもりなんて無かったけど、

この二人、間違いなく




できてる!!!!!




しかも、

アルファ×オメガ(ただし運命の番ではない)か、

ベータ×オメガ。


さらに言うと、会長の方がベタ惚れ。





王子、朝のトキメキを返して…血涙。





オメガ優位のカップルって珍しいと思うんだけど、


いや、でも、漫画とか小説では、

アルファが惚れ込んで始まる恋愛とか、

最後にはアルファがメロメロになって溺愛とか、

有るか。

めっちゃくちゃ有るか。



それにしても、王子会長と、陰キャ部長が

こんなことになっていたとは。





同じ陰キャでオメガがここにおりますのに!!血涙





ダメだダメだと思いながら、

僕はまた覗き見をしてしまう(エロに飢えていることは否定しない)。


ズボンだけ脱いだ部長は、会長を虐め続けていたが、

ひたすら刺激に耐える会長を見て、舌打ちをする。



「人に見つかると事ですよ。

早くズボンを脱いでください」


腕を組んで会長に命令する。



「だから!俺は!ただお前に会いたくて!」


の煩い!

疾々とっとと脱いで、尻を向けなさい!!」



部長が苛立ちを込めた大声を上げる。


部長が大きな声を上げる姿も、

乱暴な口調で人に命令する姿も、

初めて見た。


会長は身を固くする。


「それとも勃起したまま授業に出たいのですか?

アルファ予想第一位の馥井会長!!」


部長の胸ぐらを掴んでいた会長の腕を、

部長は両手で掴み上げ、

ヒラリと会長の背後に回る。

会長を壁と向かい合うように、壁に押しつけ、

後ろから抱きしめるように押さえつける。


部長の方が背が低いのに、

会長は後ろ手に手を拘束され、完全に身動きが取れない。


「やめろ、俺はただお前に会いたくて」


「私に?私のペニスに?」


グイっと部長が自分の股間を、会長に押し付ける。


「あ…っ!」


ビックリするほど、甘い声が会長の口から漏れる。




「アルファに出会うまでの"つなぎ"に、

ベータを利用するなど、なんと卑しい!」




冷たい声で部長がそう言い捨てると、

ギュウゥ!と強く会長の乳○をツネる。



「ああああああ!!!」



ビクビクビク!っと会長の体が震える。

うっすらと会長の目に涙が浮かぶ。



涙を見た部長は、会長の手を離す。


「嫌なら止めましょう。

君はオメガで有る前に、一人の気高い人間の筈ですからね。

ヒートも抑制剤を使っているなら、大した事ないでしょう?」


そう言いながら、また部長はゴリっと一瞬、股間を会長に押し付ける。

口を固く結ぶ会長。



「疲れたので、ズボンを上げてもらえますか」



疑問形の言葉だが、拒否する事は許されない響きがあった。


会長は部長と向かい合わせに体を向き直し、

次に部長の前に跪く。


跪いた会長は震えている。


「俺は、本当にお前のこと、好きなんだよ…」


会長が振り絞るような声を出す。

部長は白けたような顔で見下ろす。


「だから、だから…」


会長は縋り付くように部長の足に手を絡ませる。

会長のズボンの前は膨らんでいる。

部長は心底失望したような溜息をつき、命令する。




「咥えろ」




会長は涙をポタポタと零しながら

部長の下着を下ろし、部長のモノを咥えた。


屈辱の涙なのか、悦びの涙なのか。


眉を顰めながら、恍惚とした表情を浮かべる会長の顔を見る限りでは、

僕には判断できなかった。









わーお。


オゥマイ王子オメガ。

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