第9話:宴会

 少々残念だが、今回の件に参加した冒険者が全員集まって宴会になった。

 俺としては、ロイドと二人きりでしっぽりと飲みたかったのだが……

 まあ、今はこれでいい、この状態なら、勢いで肩を抱いても許される。

 冒険者の団結を推奨する歌を歌えば、隣のロイドの肩を抱いても許される。

 すぐ隣でロイドの男らしい快活な笑い声を聞けるのは、極上の肴だ。

 ロイドがフォークを使った大皿料理を、後から俺が食べれば、間接的にキスしたことになるから、ありふれたステーキもから揚げも、極上の料理になる。


「おお、そう言えばあの話を聞いたか?」


 何か思い出したロイドが、思いっきり顔を近づけて話しかけてきた。

 甘いロイドの体臭や口臭が、脳を直撃してクラクラしてしまう。

 気力を総動員して踏ん張らないと、無意識にロイドに抱きついてしまう。

 ロイドを抱きしめ、胸に唇を這わすことができたら、どれほど幸せだろうか?

 ロイドの汗の味は、どれほど甘いのだろうか?

 本能に逆らうには、会話に集中するしかない。


「あの話とは何なんだい?」


 俺が聞き返すと、直ぐにロイドが少し聞かせてくれた。


「レントン王国の件、レントン王国の王太子が婚約を解消したって話だよ」


 ロイドの話に、ロイドの体臭に甘く酔っていた気持ちが、冷水を浴びせられたように醒めてしまったが、それも当然だろう。

 レントン王国の王太子とは、俺を振って弟を選んだゲセルトの事だ。

 そしてロイドが面白そうに話そうとしている、婚約解消された男というのが、俺の事なのだからな。


「いや、全然知らない、教えてくれ」


 俺は覚悟を決めてロイドから話を聞くことにした。

 ロイドの口から、婚約破棄された俺を嘲笑う言葉が聞ければ、ゲセルトとジャンに対する恨みがさらに高まり、復讐の決意が強固になると考えたからだ。

 好ましいと思っている、ロイドの口から馬鹿にされる言葉を聞くのは辛く哀しい事だが、それが事実なのだから、受け止めて自分の力にする方がいい。


「知っているとは思うが、レントン王国は男同士の結婚が認められている。

 認められているのは、秘術で男同士でも子供が作れるからだが、知っていたか?」


 ロイドが聞いてきたが、俺には当たり前の事だ。

 だがそれを口にすると、俺の正体に近づくことになるかもしれない。

 ロイドに知られても、別に何の害もないのだが、ジャンが俺に刺客を放っている可能性があるから、油断するわけにはいかない。

 まあ、ジャンが放つ刺客くらい、簡単に返り討ちにしてやるがな。


「いや、初耳だ、凄い秘術があるのだな」


「それがな、莫大な魔力が必要で、王太子の二度目の婚約者が低能過ぎて、婚約破棄されることになったらしい」

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