第8話:お先に

 俺は冒険者ギルドが把握していない、過去の英雄豪傑すら達していない、深々層にまでたどり着いてから、ようやく足を緩めた。

 深上層から深下層までは、槍の届く範囲に現れた魔獣だけを斃し、流れるような動作で魔法袋に入れて確保した。

 深層の魔獣を狩ってギルドに渡さないと、文句を言われてしまうからだ。

 俺が本当に欲しくて確保したいのは、深々層の魔獣素材と魔晶石だ。


 今日までに深々中層までは到達している。

 今日は何があっても深々下層まで到達したい。

 巨大で質のよい魔晶石を身に着ける事で、一度の戦闘で使える魔力も日々増えているから、深々下層の魔獣も斃せるだろう。

 深々下層の魔獣から手に入れた魔晶石を身に着ければ、更に戦闘力は高くなる。

 深々下層の魔獣素材で武器と防具を造れば、ボスを斃す事も夢ではない。


「よお、遅かったな」

 

 俺が冒険者ギルドでのひと騒動を終えて休んでいると、ロイド達ドラゴンファングがダンジョンから戻ってきた。

 孤児や浮浪者は俺よりずっと前に戻ってきて、嬉々として受付をすませたと聞く。

 新人とロートルは、個々のレベルが違うので、分散して戻ってきたようだが、私が小石を使って斃した魔獣が多過ぎて、自分達が狩る事もなく運べる限界になった。

 俺が狩った結構な量の魔獣が、新たに湧いた魔獣に喰われてしまったようだ。


「なんだ、もう帰って来ていたのかよ。

 こっちはメイガが斃した魔獣を回収しただけで、ろくな狩りもしなかったのによ。

 残念だが、結構な量の魔獣が喰われちまっていたよ。

 魔法袋が一杯になるまで詰め込んで、持てるだけ持って帰ったんだがな。

 メイガが普段どれだけもったいない事をしていたのか、よくわかったよ。

 ギルドが躍起になるわけだ」


 言葉では非難しているようなのだが、口調と表情は俺を褒め称えてくれている。

 ドラゴンファングのメンバーも、呆れた表情が混じっていたが、同じように評価してくれている。

 とても気持ちのいい連中で、今日も酒を酌み交わしたくなる。

 聖女という綽名のあるエタナだけは来てほしくないが、それは望み過ぎだな。


「メイガ様、あのぉ、とても今日中には計算できそうにないのです。

 それと、その、多くの素材が競売品目に相当しまして……」


 胸のない受付嬢、マリナな恐る恐る声をかけてきた。

 素材を持ち込んだ時に、あまりにギルド幹部が騒ぐの、本気の殺意を叩き込んでやったら、全員が半死半生になったから、俺の事を恐れているのだろう。

 だからといって、そこまで恐怖の表情を浮かべるのは止めろ。

 ロイドに悪い印象を持たれてしまうではないか。


「おい、メイガ、お前何をやらかしたんだ?」


 

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