第7話:お零れ

 六時丁度にダンジョン前に来たのだが、待っている人数の多さに驚きを隠せない。

 ロイドの話では、孤児と浮浪者、初心者とロートルだったはずなのだが、現役の中堅どころからトップまで、ほぼ全員がそろっている。

 ロイドのドラゴンファングまでいるのには開いた口が塞がらない。


「これはどういう事なんだ、ロイド?」


「メイガは俺達が潜れないような深さの魔獣まで捨てちまうからな。

 できるだけ一緒についていって、おこぼれを拾う心算さ」


 ロイドはなんの屈託もなく、笑顔で身も蓋もない事を口にする。

 昨日聞いた話では、本当かどうか、貴族の私生児らしい。

 その所為で幼い頃から相当苦労してきたと言っていた。

 貴族の私生児というのは眉唾物だが、苦労してきたのは間違いないのだろう。

 だからこそ拾える金は絶対に拾うし、拾った金を弱者に回す事も忘れない。

 こんな男に笑顔で言われたら、文句など口にできなくなる。


「分かったよ、だけど、だからといってゆっくりはしないぞ。

 全力で駆け抜け手当たり次第に魔獣を斬り殺す。

 だが、トップや中堅まで加わったら、弱者救済にならんだろう?」


 俺は不意に浮かんだ疑問を口にしてみた。

 そもそもこれは弱者救済のために始めたことだ。

 中堅どころやトップが浅層や中上層の素材を拾ってしまったら、弱者が素材を拾えなくなってしまう。


「ああ、それなら大丈夫だ、何の問題もない。

 トップや中堅どころは中中層からしか拾わない約束になっている。

 そもそもここに集まっているのは、普段から弱者救済のマナーを守っている連中だから、はしたない真似はしないよ」


 他の人間の言う事、特に女の言う事は信じられないが、ロイドが言うなら間違いないだろう、これで何のわだかまりもなく魔獣を斬り斃す事ができる。

 この時のために、魔法袋一杯に小石を拾ってきたのだ。

 浅上層から中上層迄の魔獣なら、小石を指で弾くだけで斃すことができる。

 中中層から深上層までの魔獣には、徐々に魔力を込めなければいけなくなるが、買い取り単価を考えれば、それほど無理をする必要もないだろう。

 そもそもトップや中堅は、十分稼いでいるのだから。


「じゃあ、今から狩るからな、全力でついて来いよ」


 俺はそう言い捨てると、いつも通り魔力を消費し過ぎない最速で駆けた。

 魔獣などいないように、一直線で駆けながら、万が一の事態に備えて右手に槍を持ち、左手で小石を弾きながら。

 恐らく無数の魔獣が急所を小石に貫かれて死んでいるのだろうが、はるか後方の出来事になっているので確認はできない。

 トップ連中も必死で追いかけようとしていたようだが、俺の速さについて来れる者などいない。

 斃した魔獣が他の魔獣に喰われる前に辿り着けよ。

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