第6話:事情

 ロイドと受付嬢の話では、俺のようにダンジョンの深層にまで潜れる冒険者はとても少ないようだ。

 その深層の素材を使えば、今は豊かな王侯貴族しか買えない治療薬を、比較的安価に作れるよになるという。

 だが深層素材の薬が数多く出回れば、今ロイド達が集める素材で作られている、中層素材の魔法薬の値段が下落して、素材の買取価格にも影響が出てしまう。

 そういう点でロイド達冒険者とギルドの意見が違ってしまうようだ。


「俺としては、魔法袋に余裕があるのなら、負担にならない範囲で、深層素材を回収して欲しいと思っている。

 確かに俺達の実入りは少なくなるが、治療や回復効果の高い深層薬が出回れば、多くの人が助かるのは確かだからな。

 それに、俺たち冒険者が死ぬ確率も低くなるからな」


 ロイドの言葉こそ、高潔であるべき王侯貴族が口にすべきことだ。

 多くの王侯貴族が、民に寄生するだけの存在に成り下がっているが、俺は冒険者になったとはいえ貴族の誇りを忘れてはいない。

 ここは予備の魔法袋を活用して、深層素材を持って帰るしかないな。

 それにしても、最後に見せたロイドのウィンクは魅力的だった。

 思わず背筋がぞくぞくしてしまった。


「それで深層素材を持ち帰る方法なんだが、メイガも自分が必要だと思う魔晶石や素材は確保しているんだろ?

 だったら深層魔獣をそのまま持ち帰ればいい。

 ギルドも素材をちょろまかしてメイガを怒らすほど馬鹿じゃない。

 確保したい魔晶石の大きさと透明度、素材の品質を指定しておいて、解体はギルドに依頼しておけば、今まで以上に早く狩りができるさ。

 解体料なんて、今まで捨てていた素材分でお釣りがくるどころか、大儲けだよ」


 そう言ってとても魅力的な笑顔をみせてくれる。

 思わず抱きしめたくなるが、グッとこらえる。

 この国は男同士が愛し合うのを禁止しているから、抱きつくのは厳禁だ。

 火炙りにしたり斬首にしたりはしないが、色々と遣り難くなる。

 いい男を眼で楽しむくらいが、ちょうどいいかもしれない。

 

「分かった、だったら今まで捨てていた素材をギルドで解体してもらう事にする。

 どうしても確保しておきたい魔晶石と素材だけは切り取って、今まで捨てていたところを持ち帰ろう。

 最初から期待外れの魔獣は、解体せずに持ち帰ろう。

 それと明日の開始だが、何時もの六時にダンジョンに入るから、斬り捨てた素材を集めたい者は、少し前に集まってもらおう、それでいいな、受付嬢」


 俺の言葉を聞いた受付嬢は、魅了された人間のように、首をカクカクと上下させているが、何かあったのか?

 まあ、そんな事はどうでもいい。

 誰にも疑われずにロイドとさしつさされる一杯やれるんだ。

 ここで友情を偽装できれば、毎日一緒に酒を飲んでも疑われずにすむ。


「さあ、一瓶奢ろうじゃないか、ロイド」

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