第4話:マナー

「メイガさんよ、あんたにも事情があるんだろうし、見ていれば冒険者するのが初めてなのも分かっている。

 だからマナーについても知らないのだろうが、どこの冒険者ギルドに行っても、そのマナーについては同じなんだよ」


 話しかけてきたのは、この冒険者ギルドのトップチームの一角、ドラゴンファングのリーダー、ロイドだった。

 話しかけてきたのが男で本当によかった。

 今女に話しかけられたら、無意識に攻撃してしまっていたかもしれない。

 だが、マナーがあるとは知らなかった。

 マナーがあるのなら、規則ではなくても守らなければいけないのは確かだ。


「そうか、それは申し訳なかった。

 別にマナー違反をしたいわけではない。

 規則に記載されていなくても、長年かけて培われたマナーは尊重しよう。

 さっき受付嬢が言っていた、屑素材を持ち帰るというのもマナーなのだな?」


 話の内容からいってそうなのだろうとは思ったが、念のために確認した。

 最初に女と話すのが嫌で、規則だけ聞いてマナーの確認をしていなかったという、痛恨の失敗をしているのだ。

 ここはちゃんと確認しなければいけないだろう。


「いや、いや、そうではないんだよ。

 トップパーティーは、若年やロートル、時には孤児や浮浪者に仕事を与え、餓死しないように、狩った獲物を運搬する仕事を与えるのがマナーなのだよ」


 なるほど、規則ではなくマナーという理由が分かった。

 どれだけの実力があって、どんな魔獣を狩れて、どれくらい余力があるなんて、本人以外には分からないからな。

 規則で決めるのではなく、本人やパーティーの余裕によって、施す魔獣の種類と数を自主的に決めればいいのだろう。

 だが、俺の場合は根本的な問題があるのだか、それはどうするのだろう?


「ふむ、マナーを守るのはいいが、根本的な問題はどうするのだ?

 俺が狩るような深くまで、孤児や浮浪者、若年冒険者やロートル冒険者は付いてこれないだろう?

 行き帰りまで護衛しろと言われても同意できんぞ?」


 地位の高い者にはそれに応じた責任がある事は、生まれた時から叩き込まれてきたから、強者が弱者に施す事は理解できるし協力する気もある。

 だが、何から何まで助けてくれというのなら、それは弱者のエゴだろう。

 そんなエゴに付き合う気は断じてない。

 どうしてもそれがマナーだというのなら、別の国のダンジョンに行くまでだ。

 なんなら人間が発見していない未開発のダンジョンを探してもいい。


「いや、いや、そこまでは求めていないよ。

 冒険者にそんな事を求めても、俺も含めて絶対に応じないさ。

 ちゃんとやれる範囲の支援相場が決まっているよ。

 今からその説明をしたいのだが、いいかな?」

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