月明かりの下の二人 ③
(ん……?なんだ、くすぐってぇな……)
翌朝、アキラは鼻先に当たるくすぐったい感触で目覚めた。
ゆっくりと目を開いたアキラは、驚きのけぞり、危うく壁に頭を打ち付けそうになる。
(うおっ……!ビックリした……!)
アキラの腕の中で、ユキは裸のままスヤスヤと寝息をたてている。
くすぐったい感触の正体は、ユキの髪の毛だった。
(気持ち良さそうに寝てんな……)
アキラは少しはだけたユキの体に布団を掛けてやると、愛しそうにユキの寝顔を見つめて髪を撫でる。
ユキのまつ毛が微かに揺れた。
夕べあれからアキラは、しっかりと握り合ったユキの手を引いて、部屋の前までユキを送り届けた。
アキラがいつものように『じゃあな』と言って帰ろうとすると、ユキがまたアキラのコートの裾を引っ張った。
「……どうした?」
「なんでこのまま帰るの?」
「えっ、なんでって……」
ユキに思わぬことを尋ねられたアキラは、それはどういう意味なのかとたじろいだ。
「私とは無理だから?」
「無理って……なんのことだ?」
「こんな色気もへったくれもねぇやつとは無理って、言ったじゃん」
たしかにそうは言ったけれど、あれは売り言葉に買い言葉で咄嗟に出た言葉だ。
もちろんユキのことを、そんなふうに思ったことなど一度もない。
色気がなくて無理どころか、ユキに触れたい衝動を抑えるのに、いつも必死だった。
「ユキだって……オレとは有り得ねぇって言っただろ。今更だって」
「言ったけど……」
ユキはうつむいて、アキラのコートの裾をギュッと握りしめた。
「今は、有り得なくないよ……」
「オレも男だからな。そんなこと言うと、遠慮なく食っちまうぞ?いいのか?」
「……言わせんな……バカ……」
それからアキラは、ずっと抑えてきた想いを伝えるように、ベッドの中でユキを抱きしめて、好きだと言いながら何度もキスをした。
ユキはアキラの背中に腕をまわして、何度もくりかえされるアキラの優しいキスに応えた。
アキラは大きな手でユキの身体中に優しく触れて、柔らかい部分に唇と舌をゆっくりと這わせた。
そして、今、自分の腕の中にユキがいる幸せをかみしめながら、ありったけの愛情でユキの体の奥の深いところを満たした。
全身で互いを求め愛し合った後、アキラはユキにキスをして、『ユキ、愛してる』と囁いた。
ユキが照れ隠しに『愛されてやる』と言って笑うと、アキラは『オレのことは愛してくんねぇのかよ……』とため息をついた。
ユキはアキラをギュッと抱きしめて呟いた。
『ありがとう、アキ……愛してる……』
アキラはユキの寝顔を見つめながら、夕べのことを思い出して赤面した。
(ユキ、めちゃくちゃかわいかった……。しかし……女のユキの口からあんなこと言わせるとか……オレ、マジで情けねぇ……)
あの時ユキに引き留められなければ、そのまま何事もなく帰っていただろう。
片想いが長かったせいか、ユキに対して気後れしている部分は少なからずあるとアキラは思う。
だけどもう、片想いをしていたあの頃とは違う。
ようやくユキに好きだと言ってもらえたのだ。
これから先の人生は、何があってもこの手でユキを守り、命をかけてユキだけを愛し抜こう。
そして、今度こそ肝心なことは自分から切り出そう。
アキラはそう心に決めて、眠るユキの額にそっと口付けた。
アキラとユキが互いの気持ちを確かめ合ってから1か月が経った。
二人は相変わらず憎まれ口を叩きながらも、毎日のように会って一緒に過ごしている。
一緒に過ごした別れ際は、ユキが少し甘えた目でアキラを見上げる。
そんな時アキラはいつも、ユキを抱き寄せて優しく口付けた後、『また明日な』と言う。
お互いにどうしても離れがたい夜は、アキラがユキの部屋に泊まって、翌朝一度自宅に戻り、身支度を整えて出勤する。
そして仕事を終えると自宅に帰り、ユキの仕事が終わる頃になると、サロンへユキを迎えに行く。
ほとんど毎日がそのくりかえし。
特別なことは何もなくても、一緒にいるだけで心が満たされる。
ユキと過ごす毎日は心地良い。
日毎に愛しさが増して、ユキともっと一緒にいたいとアキラは思う。
今日はユキのサロンの定休日。
アキラもそれに合わせて休みを取り、二人で出掛ける約束をした。
今度こそユキに先を越されないように、タイミングを見計らって、それとなくユキに大事な話を切り出してみるつもりだ。
二人して出掛けたショッピングモールのレストラン街で昼食を取った後、アキラはユキの手を引いて、ある店へ向かって歩いた。
「アキ、買いたい物でもあんの?」
「ん?ああ。買いたい物もあるけどな。でもその前にちょっと付き合え」
「別にいいけど……」
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