胸に秘めた想い ⑤

「食べないの?」

「……やっぱやめとく」

「ふーん……?」

「いや……やっぱ食う」

「どっちだよ。食べるの?食べないの?」


 ユキが少し苛立った様子で唐揚げを差し出した。

 アキラは思いきって口を開き、唐揚げを素早く口に入れた。


(あーもう!!めちゃくちゃ恥ずかしいじゃねぇか!!ドキドキさせんなよ、バカ!!)


 照れくさいのを通り越して、なんだか無性に腹が立つ。

 アキラは唐揚げと一緒に、胸のモヤモヤを流し込むように、一気にビールを飲み干した。

 そしてまた、おかわりしたビールをすごい勢いで煽った。

 アキラはまた酔いが回ったのか、ドキドキし過ぎて、身体中をすごい速さで血液が巡っているような感覚に陥る。


「そんなに急いで飲んで大丈夫?」


 少しぼんやりしているアキラの顔を、ユキが心配そうに覗き込んだ。

 アキラは頬杖をついて、ぼんやりした目でユキの方を見ている。


「……なんで来なかったんだよ」

「え?」

「オレのことなんてどうでもいいのかよ……。薄情者……」


 ユキは少し困った顔をして、アキラから目をそらした。


「……アキが言ったんでしょ」

「オレが何言ったって?」

「友達やめる、って」


 ばつの悪そうな顔をしたユキがかわいくて、今すぐにでもユキを抱きしめたい衝動が、アキラの胸に込み上げる。


(なんだその顔……かわい過ぎんだろ……。思いっきり抱きしめてぇ……)


 アキラは少し手を伸ばして、ユキの髪を指に絡めた。

 ユキは驚いてアキラの方を見た。


「たしかに言ったけど……友達やめたら会えねぇのか?」

「えっ?」

「オレは……ユキに会いたいって、ずっと思ってた。ユキと会えるなら、もう友達でもなんでもいい……」


 アキラはユキの髪から指を離し、頬杖をついて目を閉じた。


「アキ……酔ってる?」

「酔ってても酔ってなくても、オレは昔からずっとそう思ってるっつーの……」


 ユキは目を閉じているアキラの顔を眺めた。

 アキラの顔なんて昔から見慣れているはずなのに、なんだかやけにドキドキする。


(会いたいって……アキも思ってくれてたんだ……)


 アキラはただ酔って口走っただけなのかも知れないけれど、それが本心なら嬉しいとユキは素直に思う。

 それはなんとなくくすぐったいような、照れくさいような、不思議な気持ちだった。


「ユキちゃーん、なんか外国のすげぇ高いお菓子くれるってよー!こっちおいでー!」


 常連客が海外旅行のお土産を振る舞っているらしく、店の奥からマナブが大声でユキを呼んだ。

 マナブは笑ってユキに手招きしている。

 振り返って席を立ち上がろうとしたユキの手を、アキラの大きな手が掴んだ。

 ユキは驚いてアキラを見る。

 アキラは頬杖をついて、顔を隠すようにうつむいたまま、ユキの手を握りしめた。


「……行くなよ」

「え……?」

「どこにも行くな、ユキ……。ずっと、オレのそばにいてくれ……」


 うつむいたアキラは、耳まで真っ赤になっている。

 ユキは嬉しそうに笑みを浮かべて、その手を握り返した。


「最初から素直にそう言えよ、バーカ……」

「バカはお互い様だ、バーカ……」


 アキラは少し顔を上げて、照れくさそうに呟いた。

 ユキはアキラの顔をイタズラっぽい目で覗き込む。


「しょうがねぇから、ずっとアキのそばにいてやる」


 アキラは照れ笑いを浮かべながら、ユキの手をもう一度ギュッと握った。


「しょうがねぇのかよ……。まぁ……ユキがいりゃ、それでいっか……」



 マナブは離れた場所から、アキラとユキの後ろ姿を見て微笑んだ。

 二人は少し照れくさそうに笑みを浮かべて、その手をしっかりと握り合っている。


(やっと仲直りか……。いや、それ以上か?ホントに世話が焼けるな、あいつら……)


 どうやらユキが嫁に来ることはなさそうだと思いながら、マナブは嬉しそうに笑った。





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