愛したい、愛されたい ④
ホノカはグラスに残った白ワインを飲み干して店員を呼び止め、新しいボトルを注文した。
「ものすごく好きだったわけでもないのに結婚しようと思ったりとか、相手の言うことをまったく疑わなかったりとか。よく考えたら何もかもおかしいんだけどね。私はあの頃、結婚を焦りすぎて、物事を正しく見極められなくなってたんだと思う」
ユキはなんとなく、自分にもその傾向があるような気がした。
妙な汗が手のひらににじむ。
「あのー……参考までに、その話、具体的に詳しく聞かせてもらえる?」
「いいけど……。あの頃はまだショップをオープンする前でね。とにかく一生懸命働いて、オープンの資金を貯めてたの」
8年半ほど前、エリコはいつか自分がショップを開く時の参考になればと、別のオーナーコミュニティーに入ったそうだ。
そこで知り合ったショップオーナーの男性と意気投合し、付き合い始めて半年が経った頃、そろそろショップのオープンに向けて動き出そうかとしていたエリコに、彼は結婚話を切り出した。
結婚して、大きめの店舗付きの一軒家を購入して、そこで一緒に店をやらないかと持ちかけたらしい。
「私が扱うのはアクセサリーだし、そんな大きな店舗は要らなかったんだけど。彼は雑貨とか手作り家具なんかをあちこちで買い付けて店に置いてたらしくて、ある程度の広さが欲しかったのね。で、その一角に私のアクセサリーを置けば、うまく共生していけるんじゃないかって」
ユキはエリコの話を聞きながら首をかしげた。
(偶然……?にしては似すぎてる……)
エリコは新しいボトルから白ワインをグラスに注いで話を続ける。
「それで、その店舗付きの一軒家を買うために手付金とか頭金が必要だから、せめて半分は出して欲しいって」
「半分って、いくらくらい?」
ホノカが尋ねると、エリコは指を開いて手のひらをユキとホノカの前に突き出した。
「500万」
「500万?!」
「手付金500万、頭金500万。合計1千万の半分だから500万。できるだけ頑張ってかき集めて、足りなかったら銀行から借りてくれって言われた」
エリコとホノカの会話を聞きながら、ユキはテーブルの下でギュッと拳を握りしめた。
(私と一緒だ……!ってことは……)
「なにそれ!!これから結婚しようって言ってる相手に、借金してでも金出せとか、普通言わないよ!」
まるで自分のことのように、ホノカは不快感をあらわにした。
「だよね。だけどホラ……その時の私の頭の中は普通じゃなかったから、まったく疑わなかったんだ。元々ショップを持つつもりだったし、オープン資金でそれくらいの貯金はあったから、それで結婚までできるなら一石二鳥だって」
「幼馴染み、よくぞ止めてくれた!!」
「彼は司法書士でね。その手の話には敏感だから。その頃、事務所に同じような相談してきた人がいたんだって。だから絶対やめとけって、必死で私を説得してくれた」
ユキは、マナブの勘は正しかったのだと思いながら白ワインを一口飲んだ。
「それで……それからどうなったの?」
「お金を渡す約束をしてたんだけど……幼馴染みが代わりに行ってくれたの。それでもう二度と私には関わるなって言ってくれた」
「その後は?」
「一度も会ってないし、連絡もまったくないよ。それでやっと、やっぱり詐欺目的で近付いてきたんだなって気が付いた。結婚できなかったことより、そんな奴に自分が騙されてたことの方がショックだったな」
エリコの言葉を聞きながら、うなだれて大きなため息をつくユキを見て、エリコとホノカは顔を見合わせた。
「ユキ……どうしたの?」
エリコが心配そうな顔をして尋ねると、ユキはまたため息をついた。
「エリコさん……。私……今、彼から同じこと言われてる……」
「え?」
「どういうこと?」
ユキの言葉の意味がよくわからなかったのか、エリコとホノカが同時に聞き返した。
「別のオーナーコミュニティーで知り合ったショップオーナーの彼に、付き合って半年くらいで、結婚して大きめの店舗付きの一軒家を買って一緒に店をやろうって。まさしく今、その資金を半分は出してくれって言われてる……」
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