危険信号 ⑤
枕の下に隠したその写真は、半年ほど前にリュウトと会った時に撮ったものだ。
その時、リュウトとユキ、アキラの3人で居酒屋に行った。
アキラはリュウトがロンドンから帰国してすぐの頃に一度会って以来、ユキはリュウトがロンドンに行く前以来の再会だった。
リュウトとユキは同窓会帰りで、デジカメを持っていたユキが、久しぶりに会ったから写真でも撮るかと言い出し、3人で撮ったり2人ずつ撮ったりした。
大人になってからは写真を撮る機会はほとんどなかったので、一緒に写真を撮るのは本当に久しぶりだった。
その時リュウトが撮った、アキラとユキが肩を寄せ合って笑っているツーショット写真が、枕の下に隠したそれだった。
3人で会ってから数日後、プリントした写真をユキから受け取った。
それからアキラはユキと写ったその写真を、カンナが来ている時は裏返してベッドサイドの目立たない場所に置いていたが、ユキと会わなかった日の一人の夜はいつも、ユキのことを想いながら眠りに落ちるまで眺めていた。
それをアルバムにはさんだのは、たしか2か月ほど前で、一緒に酒でも飲もうと急にユキが部屋に押し掛けて来た時だ。
前日の夜の寝る前の時間に眺めていて、枕元に置いたままになっていたその写真を隠そうと、ベッドサイドの引き出しにでもしまえばいいものを、なぜか咄嗟に、慌ててアルバムにはさんだ。
その後、ストーカー騒動があってユキが部屋に泊まったり、カンナが部屋に来る機会が増えたりしたので、写真はそのままになっていた。
その写真を今度はカンナに見られないように、枕の下に隠した。
カンナは何か言いたげだったけれど、しつこく見せろと言ったりはしなかった。
その後、アルバムを見終わったカンナをバス停まで送った。
ここ最近カンナとは頻繁に会っているが、セックスはしていない。
気付けばいつも、カンナの体を抱きながら、心の中ではユキを抱いている。
それがどんどん後ろめたくなって、カンナの体に触れることも煩わしくなってしまった。
この間までは体ばかり求めたくせに、急に触れることもしなくなったアキラを、カンナは不審に思っているかも知れない。
だけどもう、アキラ自身がカンナとの関係に限界を感じている。
いい加減ハッキリさせないと。
そう思っているうちに、時間ばかりが過ぎていく。
バスに乗る間際、カンナは言った。
「私、早くアキくんと暮らしたいな。そうすればずっと一緒にいられるでしょう?」
アキラが返事をする間もなく、カンナはバスに乗って帰っていった。
部屋に帰ると、アキラはカンナの言葉を思い出して大きなため息をついた。
どれだけ譲歩したとしても、カンナと一緒に暮らすことなんて考えられない。
(あれって、どう考えても……『同棲したい』じゃなくて、『結婚したい』って言ったんだよな……?)
自分が別れ話を切り出すことを躊躇しているうちにも、カンナの気持ちはどんどん結婚に向かっているのだとアキラは気付いた。
早いとこ手を打たなければ、後戻りできなくなってしまう。
その夜アキラは、枕の下に隠したユキの写真のことも忘れ、カンナへの別れの言葉を考えながら眠りについたのだった。
あの夜隠した写真を手に取ろうとしたアキラは、枕の下に手を突っ込みながら大きく首をかしげた。
(あれ……?たしかにここに隠したはずなのに、なんでねぇんだ?)
枕や布団をどけてベッドの上やマットレスとの隙間を探してみたけれど、あの写真はどこにもない。
ベッドの下にも落ちていなかった。
あれから一度も触っていないし、もちろんアルバムや引き出しにしまった覚えもない。
忽然と姿を消してしまった写真は、部屋中どんなに探しても見つからなかった。
(神隠し……?いや、まさか。足があるわけでもねぇのに、一体どこに行ったんだ……?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます