素直になれない嘘つきな二人 ①
翌日。
アキラはユキのマンションのすぐ近所に配達に来ていた。
何軒かの家に配達を済ませ、配送車に戻ってリストを見ると次の配達先はユキと同じマンションの1階に住む住人宅だった。
(ユキのマンションか……。なんとなく気が重い……)
アキラはそんなことを思いながら、ほんの少し先にあるユキのマンションへ配送車を走らせた。
あの日からもうずいぶん経つが、ユキには一度も会っていない。
トモキに言われた言葉が、夕べから何度もアキラの頭の中を駆け巡っている。
『なんもしないで悔やむよりは、今どうしたいのかアキが思うように動いてみたらどうだ?なんか変わるかも知んねぇぞ?』
(どうしたいのかって言われてもな……)
本当はユキのそばにいたい。
できるなら友達としてではなく、一人の男として好きになって欲しい。
けれどそれは、自分だけが思っても仕方のないことだ。
ユキの気持ちはユキにしかわからない。
そしてカンナとのことをどうすればいいのか。
ユキをあきらめきれないままで、カンナを本気で好きになれるはずがない。
だけどあんなに想ってくれているカンナに別れ話を切り出すのは簡単なことじゃない。
(カンナには悪いけど……やっぱオレはユキじゃなきゃダメなんだよな……)
アキラは配送車をユキのマンションのすぐ目の前に停車した。
リストを手に配達番号と届け先を確認する。
リストから視線を上げた時、ユキの部屋の辺りが視界に入った。
アキラが大きなため息をついて配送車を降りようとした時、ユキの部屋のドアの前に誰かがいることに気付いた。
(なんだ……?セールスか何かか?)
若い男性がユキの部屋のドアの前に立っている。
セールスならチャイムを押したり、留守だとわかったら次の部屋へ移動しそうなのに、その男はドアの方を向いたままじっとしている。
不審に思ったアキラは、マンションの1階に住む住人に素早く荷物を届け、ユキの部屋へと急いだ。
足音をたてないように階段を駆け上がり、その男性の背後からそっと近付いた。
男性は息を荒くしてブツブツ言いながら、ユキの写真を1枚ずつ眺めてはドアポストに入れていく。
「かわいいアユミちゃん……好きだよ……君を僕だけのものにしたい……。僕のこの手で君をめちゃくちゃに汚したいよ……」
ユキがこの気味の悪い男に何かされたらと思うと、アキラは全身の毛が逆立つような寒気と不快感に襲われた。
(ユキをつけ回してるのはこいつか……!!)
次の瞬間、アキラはその男に飛び掛かり、腕を捻りあげて押さえ込んだ。
「いててっ!!何するんだよっ!!誰だオマエ?!」
少し気の弱そうなその男は、精一杯の虚勢を張った。
「何するんだじゃねぇよ!オマエこそ誰なんだ?!」
「僕はかわいく撮れた写真と手紙を大好きな女の子に届けに来ただけだ!!」
「オマエか、盗撮写真やら手紙やらポストに放り込んでんのは!!サロンに妙な電話したりしてんのもオマエなんだろう!!」
アキラが更に強い力で腕を捻ると、男は今にも泣き出しそうな顔で叫ぶ。
「うあぁっ、離せぇ!!痛いだろ!!オマエになんか関係ないじゃないか!」
「あいにくな!見逃すわけにはいかねぇんだよ!」
(関係なくて悪かったな!!オマエと一緒でオレが一方的に好きなだけだよ!!)
こんな男にさえ、ユキとは関係ないと言われることが腹立たしい。
アキラは男の腕を捻り上げて足をはらい、うつ伏せに床に倒した。
そしてドカッとその背中に乗って男を押さえ込んだまま、ポケットからスマホを取り出して警察に電話を掛けた。
それからユキに電話をしようとしてためらい、スマホをポケットに戻した。
(はぁ……オレ気が小せぇな……)
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