素直になれない嘘つきな二人 ②
ほどなくしてパトカーがマンションの前に停まり、3人の警官が駆け付けた頃には、マンションの住人が何人か心配そうな顔をして、遠巻きにその様子を眺めていた。
二人の警官が男の身柄を確保し、一人がアキラに簡単な事情聴取をした。
アキラは警官に名前や犯人を捕らえた時の状況などを聞かれ、ユキには自分の名前は言わないで欲しいと頼んでから、ユキが盗撮写真や手紙、執拗な電話に悩まされていたことを話した。
「真山さんはこちらの住人の雪渡 愛弓さんとはお知り合いですか?」
「まぁ……。ストーカーみたいなやつがいて困ってるって相談もされてたんで……」
「あの男に見覚えはありますか?」
「全然ないっすね。配達に来たら偶然変なやつがいたんで様子見たら、妙なことを口走りながらポストに写真放り込んでたんで、こいつかと思って……。とりあえず……オレ、仕事中なんすよね。急ぐんで、もう行ってもいいっすか?」
「通報とストーカー逮捕にご協力ありがとうございました。お仕事中にすみません」
また何か聞きたいことがあったら連絡すると警官に言われ、アキラは連絡先を教えてその場を後にした。
ストーカーが捕まったことは、警察からユキに連絡がいくだろう。
これでユキに平穏な生活が戻るのならそれでいいとアキラは思う。
(ユキはきっとオレの顔なんか見たくもねぇだろうし……ユキがまた安心して暮らせるなら、それでいいや)
ユキがサロンで客にネイルを施していると電話が鳴った。
電話に出たミナが、ブースの入り口でユキを手招きする。
「何?」
「電話。警察から」
「警察?」
警察に世話になるようなことは何もないはずなのにと、ユキは怪訝な顔をしながら電話に出た。
「はい、お電話変わりました。雪渡です」
『雪渡 愛弓さんですね。実は先ほど、あなたのご自宅の前でストーカー犯を捕まえたと通報がありまして……』
「……え?」
事情を説明され、ユキは呆然とした。
たまたま通り掛かった市民からの通報を受けて現場に駆け付けたところ、その通報者が犯人を確保して警察に引き渡したらしい。
ユキが通報者が誰なのかを尋ねても、本人の希望で名前は教えられないと言われた。
なぜ名前を伏せる理由があったのかとユキは不思議に思ったけれど、とりあえずあの気味の悪い電話や、盗撮写真や手紙にもう悩まされなくていいんだと思うとホッとした。
それと同時に、犯人を捕まえたと言う連絡が、自宅ではなく、なぜこのサロンの電話にかかってきたのかが不思議だった。
「ところで……どうしてここに私がいることがわかったんですか?」
『ご自宅は留守のようでしたので、大家さんからお勤め先をお聞きしました』
「そうなんですね」
『また近々、署の方で詳しいお話をお聞きしたいと思いますので、ご連絡致します』
「わかりました」
電話を終えて客の元に戻ったユキは、ネイルの続きをしながら、通報者は一体誰だったんだろうと考えた。
(見ただけでストーカーってわかるくらい怪しかったのか……?)
なんにせよ、通報して犯人を捕まえてくれたその人に、お礼の一言くらいは言わないと気が済まない。
しかし警察からは通報者が誰なのかを聞き出すことは、できなさそうだ。
(とりあえず……帰ったら大家さんのところにお礼に行こう)
仕事の後、ユキは菓子折りを持って大家さんの家を訪ねた。
「大変だったわねぇ。ストーカーに狙われてたんですって?」
「はい、まぁ……」
大家さんは世話好きな少々おしゃべりなおばさんで、マンションの1階に住んでいる。
「あの……大家さんは警察が来た時、見てたんですか?」
「見てたわよ。ちょうど宅配便の荷物が届いてすぐ後だから……2時頃かしら」
大家さんは時計の方をチラッと見て答えた。
「なんだか騒がしいと思って上がってみたら、荷物を届けてくれた宅配便のお兄さんが犯人を取り押さえててね。そのまま警察に引き渡したのよ。カッコ良かったわぁ」
「宅配便のお兄さん……?」
(もしかして……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます