何かが足りない ④
それからしばらくしてトモキがやって来た。
大方の料理は食べてしまった後だったが、アユミが追加したとん平焼きと焼きそばはほんの少し手をつけた程度で、ほとんどが残っていた。
「腹へった。これ食ってもいい?」
「いいけど……トモ、晩御飯食べなかったの?」
「酒飲んでただけだから。アーモンドとチーズクラッカーくらいしか食ってねぇ」
トモキはウイスキーの水割りを注文して、焼きそばを食べ始めた。
「頼みすぎたのか?」
「私は要らないって言ったのに、アユが勝手に……」
ボソボソと歯切れの悪い返事をするユキを見てアユミはおかしそうに笑った。
「だってユキちゃんは、これがないとなんか足りないんでしょ?」
トモキはアユミの言葉を聞いて、冷めた焼きそばを食べながらニヤッと笑った。
「ああ……なるほどな」
「なに?その、なるほどなって……」
「いや……慣れってこえぇなぁ」
「えぇっ?」
(何?!なんでトモもアユと同じこと言うの?!)
トモキは店員から水割りを受け取り、あたふたしているユキを見て吹き出した。
「オマエら、ホント面白いよな。やることなすこと、めっちゃ似てる。考え方も似てるしな」
「は?なんのこと?」
ユキはトモキの言葉の意味がわからず、眉間にシワを寄せて首をかしげた。
「別にぃ。アユちゃん、そっちの唐揚げとポテトもちょうだい」
「もう冷めてるよ。新しいの頼む?」
「いや、いいって。冷めてもうまいから」
トモキは美味しそうに残りの料理を食べている。
ユキは首をかしげながらビールを飲んだ。
「アユちゃん、オレ、学校の先生に向いてると思う?」
「どうだろうね?向いてなくはないかも。急にどうしたの?」
「学校の先生に向いてるんじゃないかって言われたんだ。ホントになっちゃおうかなって思ったけど、校内禁煙だからやっぱやめた」
さっき会って一緒に飲んでいた友達とそんな話をしていたのだろう。
よほど楽しかったのか、トモキは上機嫌だ。
「トモは頭いいから向いてるかもねぇ……。生徒と一緒になってバカやって、先生に叱られてそうだけど……」
「あー、それは有り得るな。今度会ったら、ユキにそう言われたって言っとこ」
ユキはやけに楽しそうなトモキを見ながらタバコに火をつけた。
「誰に?」
「ん?アキだよ。さっきまで一緒にいたから」
「えっ?!」
アキラの名前を聞いて動揺しているユキを、トモキはニヤニヤしながら見ている。
「まぁ……もういい歳した大人なんだし、あんまりゴチャゴチャ口はさむ気はねぇけどな。とっとと仲直りしろよ。アキ、めちゃくちゃヘコんでたぞ」
「仲直りしろって言われても……。一方的に絶交されたんだけど」
ユキがボソボソと答えると、トモキはたまらず声をあげて笑い出した。
「超ウケる!!絶交ってオマエら小学生かよ!」
「トモ……マジで性格変わったな……。昔はかわいかったのに……」
「なんとでも言え。オマエらホント素直じゃねぇなぁ……。そういうところが似た者同士で相思相愛なんだよ」
「は?似た者同士はともかく、相思相愛ってなんだよ!!」
「別にぃ。アキも意地になってんだろ。寂しいなら寂しいって、ユキの方から素直に言ってやれよ」
「口が裂けても言わねぇわ、バカ!!」
「ホラな。言うことまで一緒。やっぱ似た者同士だよ」
中学生の悪ガキのようなトモキとユキのやり取りを聞きながら、アユミは呆れた様子でため息をついた。
「もう……トモくん、火に油を注ぐようなことしちゃダメでしょ?せっかく私がゆっくり説得したのに……」
「あ、ごめん。そうなんだ。でもこいつら考え出すときりがねぇから。答が出る前にあの世に行っちゃうかも」
「うん、まぁ……なんとなくわかるけど……」
トモキの言葉に、アユミはやけに納得した様子で深くうなずいた。
「ひどっ!アユまでそんなこと言うか!」
「ユキちゃん、取り返しがつかなくなる前になんとかしないといけないこと、世の中にはいっぱいあるよ。ユキちゃんにもあるでしょ?」
「まぁ……そうなんだけど……」
こんなふうにアユミに言われると、ユキはまるで先生に諭されている子供みたいな気分になる。
「とりあえず、早いとこ彼氏にハッキリと返事した方がいいと思う。あと、ケンカしたら仲直りは早めにしとかないと、どんどん気まずくなるよ」
「はい……」
(って……私は生徒か……?こんな正論でこられたら、もうぐうの音も出ない……)
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