後悔なんかしたくない ②
「リュウだけが悪かったわけじゃねぇと思うぞ。弱くて頼りないオレのせいだったとも思うし。みんな心の弱いとこがあんじゃん。それが偶然重なっただけだ」
「そうか……」
「この間、うちのバンドのユウに言われた。人生はなるようになってるんだって。あのままアユちゃんと平穏に過ごしてたら、オレはロンドンには行ってなかったと思うんだ。きっと大学出て就職して、普通のサラリーマンになってただろうな」
頭が良くて人当たりが良くて、誰からも好かれる真面目な好青年だった若かりし日のトモキを思い出し、アキラは思わず吹き出しそうになる。
「普通のサラリーマンのトモかぁ……。今となっては想像つかねぇな」
「だろ?そう思えば、つらかったことも必然なのかなって思えた。だからまたアユちゃんと会えたのは、そうなる運命だったのかなって」
トモキはなんともない顔をして話しているけれど、きっと親友のリュウトを許すには長い間一人で苦しんだのだろう。
それを乗り越えて笑っているトモキは強いとアキラは思う。
「みんな不器用なんだよな。しなくていい遠回りばっかしてさ」
「オレは遠回りし過ぎたみたいだ。おんなじフラれるなら、昔に言っとけば良かったなってさ。そうすれば、とっととあきらめて次にいけただろ?」
アキラがため息混じりに呟くと、トモキはタバコに口をつけながら首をかしげた。
「そうかな……。オレはアユちゃんと別れたこと、ずっと後悔してた」
「なんで?」
「別れたくないってどんなに言っても、アユちゃんの決意は変わらなかったからさ。せめて最後くらいはカッコいい彼氏でいようって……いつも通りに送り届けて、サヨナラも言わずに別れたんだよ。でもな……ずっと忘れられなくて、あの時カッコつけてアユちゃんの手を離すんじゃなかったって、死ぬほど後悔した」
トモキの話を聞きながら、アキラは考える。
もしユキが好きだと気付いた時に、迷わず告白してフラれていたら、ユキと同じくらいに別の誰かを好きになれただろうか?
それともハルのように、あきらめず何度も好きだと言い続ければ、ユキは自分を好きになっていただろうか?
その選択肢を選ばなかったのだから、答はわからない。
そして今、自分はどうするべきかなのか?
きれいさっぱりユキをあきらめてしまえば、この先自分は幸せになれるのか?
それともやっぱり好きだと言い続ければ、ユキはリュウトや彼氏よりも自分を選んでくれるだろうか?
「結局さ……オレはどうすればいい?」
アキラはタバコの火を灰皿の上でもみ消して、グラスのビールを飲み干しおかわりを注文した。
「アキはどうしたいんだ?」
「……どうすればいいかわからねぇ」
「どうすればじゃなくてさ、どうしたい?って聞いたんだよ。アキがホントはどうしたいのか、まずはそこからだろ?」
トモキの言葉を聞きながら、アキラはタバコに火をつけた。
(ホントはどうしたいのか……?)
自分の気持ちの整理がつかず、どんなに考えても、なんの答も
「どうしたいんだろ、オレ……」
「頭で考えるより、心で感じたままに動くんだよ。いざとなると頭で考えるより先に体とか口が動くもんだ」
「そんな経験があんのか?」
「そんなことばっかだよ。でもな、思い通りにうまくいかないにしても、考えることは大事だぞ。自分と向き合ういい機会だろ?」
いつも自分の周りにいる人たちより、トモキはやけに深いことを言うような気がするなとアキラは思う。
それは持って生まれた性格なのか、経験がそうさせるのか、やはり頭の良さが違うのか。
「頭いいやつの言うことは違うわ……。トモ、たしか国立大に行ってたよな?」
「中退したけどな」
「もったいねぇ。オレは中卒だからな。同じ中卒でも、リュウやユキと違ってなんの資格も取らなかったし、手に職もねぇ。あんのは車とバイクの免許くらいだ」
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