後悔なんかしたくない ①

 アユミとユキが過去の話に花を咲かせている頃、アキラはトモキと一緒にマナブのバーで酒を酌み交わしていた。

 マナブはカウンターの中で、他の客に注文されたカクテルを作っている。


「それで……アキはユキにフラれたのか?」


 遠慮なく笑って問い掛けるトモキに、アキラは舌打ちをした。


「ホントいい性格になったよな、トモ……」


 苦虫を噛み潰したような表情のアキラとは対照的に、トモキはおかしそうに笑っている。


「だってさ……アキがユキのことめちゃくちゃ好きなのは、昔から知ってたし?」

「……気付いてたのか?」

「そんなの見てりゃわかるよ。それで?ユキになんか言われた?」


 アキラはばつの悪そうな顔をしている。

 どうやら言いづらいらしいと悟ったトモキは、また込み上げてくる笑いをこらえた。


「アキも大概鈍感だけどな。ユキは更に鈍感だから、アキの気持ちには全然気付いてなかったみたいだけどさぁ……ユキは昔からずっと、リュウのことが好きだったよな」


 トモキが思わぬことを口走ったので、アキラは驚いて目を見開いた。


「……それも気付いてたのか?」

「そんなの、端から見てりゃすぐにわかるよ。だけどリュウは気付いてねぇぞ。あいつもそういうの、めちゃくちゃ鈍いから」

「オレはずっと一緒にいたのに、まったく気付かなかったぞ」

「そりゃあ……アキはユキが好きだから、近くにいすぎて見えなかったんじゃねぇか?……って言うか、見ようとしなかったんだろ?で、何があった?」


 アキラはためらいがちに、これまでのユキとのことを話した。

 ユキを失うのが怖くて、ずっと友達でいようとしたこと。

 そうして他の誰かと付き合っても、うまくいかなかったこと。

 そしてユキも同じように、リュウトへの想いを隠していたと知ってしまったこと。

 そんなユキと自分が重なり、何もかもが虚しくなって、こんな関係は全部壊してしまおうと思ってユキに無理やりキスしたことと、一方的に吐き捨てた言葉。


「わかってた事だし今更だけどさ……オレはユキに、一度も男としてさえ見られてなかったんだよなぁ。しかも相手はリュウだろ? やっぱヘコむわ。オレなんかどう頑張っても勝てねぇじゃん」

「さっすがリュウ、天然タラシ健在だな」


 トモキはおかしそうに笑ってタバコに火をつけた。

 アキラもタバコを口にくわえると、トモキが火をつけた。


「いい男過ぎるっての……。ホント天然だよな、あいつ。自覚がねぇのが更にタチ悪いんだよ」

「アキの気持ちはわかるぞ。オレなんか、付き合ってた女の子の心を何度持ってかれたか。オレ、彼女を親友のリュウに紹介するたびにフラれんの。リュウはその子たちとは付き合わなかったみたいだけどな」


 たしかに、中学時代のトモキは誰と付き合っても長続きしなかった。

 中学卒業後、トモキは地元の公立高校に通っていたが、時々彼女を連れてきても、やはりしばらくすると別れたと言っていたように思う。


「いちいち紹介するから持ってかれるんだと思ってさ。オレ、アユちゃんだけはリュウに紹介しなかったんだ」

「そういや……トモに彼女ができたとは聞いたけど、オレもユキも彼女に会ったことはなかったな」

「どうしてもリュウには会わせたくなくて、ライブにも呼ばなかったんだ。それなのにさ……オレの知らないうちに、二人は偶然再会してたんだよな。オレが会わせなくても、結局は会うようになってたらしい」

「……運命的な?」

「……的な」


 トモキは苦笑いを浮かべて、ウイスキーを一口飲んだ。


「リュウ本人がチラッと言ってたんだけどさ……トモと彼女が別れたのは、リュウが原因だったのか?」


 アキラがためらいがちに尋ねると、トモキはまたウイスキーを少し飲んで、小さく息をついた。


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