初恋の終わらせ方 ②
電話を切って、ユキはひとつため息をついた。
(トモは幸せそうだなぁ……。来年の春にアユと結婚するって言ってたっけ……)
そう言えば、タカヒコに『そろそろ結婚のことを考えていかないか』と言われてから、まだ返事をしていない。
結婚したら大きめの店舗付きの一軒家を買って、そこでタカヒコの雑貨屋とユキのネイルサロンを一緒にやらないかと持ち掛けられた。
『そうすれば仕事中もすぐそばにいられるだろ?今はあんまり一緒にいられないから、ずっと考えてたんだ』
一緒にいたいと思われていることは嬉しい気もしたけれど、コツコツ頑張って開いたサロンを手放すのは気が進まない。
タカヒコから、店の切り盛りをミナに任せて新しいネイリストを雇い、ユキはオーナーとして経営だけすればいいとも言われた。
ずっと大事にしてきた地元の顧客を人任せにして、新店舗を持とうとは素直に思えず、ハッキリと返事ができないままでいる。
結婚したいと思えるほどタカヒコのことが好きかは自分でもわからないけれど、このままではどんどん周りに取り残されていくような気がした。
(トモとアユも結婚するし、いずれリュウはハルと結婚かぁ……。タカヒコさんは優しいし、結婚したら私も幸せになれるかな?)
その頃。
アキラは配達の合間に、スマホの着信ランプに気付いた。
(ん?トモか……。珍しいな)
手が空いたら電話してくれと言うトモキからのメッセージを確認して、電話を掛けた。
『アキ、今日晩飯でも一緒にどう?』
「いいけど……二人でか?珍しいじゃん」
『いや、アユちゃんがユキのネイルサロンに行くって言ってるんだ。その後、オレとアユちゃんとユキとアキ、4人でどうかなって』
ユキの名前が出た途端、アキラは顔をしかめた。
あの夜、ユキがリュウトを好きだったことに腹を立てて、勝手に告白して一方的に友達をやめると吐き捨てた。
その上、無理やりキスなんかしたのだから、ユキとは顔を合わせづらい。
(嫉妬なんかしてみっともねぇ……。あんなのただの八つ当たりだろ……)
「……悪い、やっぱ今日はやめとく」
『なんで?』
「ちょっと無理っぽい」
『だからなんで?』
アキラとユキの間にあったことなど何も知らないトモキは、不思議そうに尋ねる。
「……ユキとはもう会わねぇ」
『だから、それはなんでって聞いてんじゃん』
「なんでも」
『フラれた?』
何も知らないはずのトモキの口から出た言葉に、アキラは激しくうろたえる。
「えっ?!なんでそれを……?」
アキラが思わず尋ねると、トモキは大笑いした。
『マジか!冗談のつもりだったんだけどな』
(しまった……!カマ掛けられたのか!)
よく考えたら、自分がユキにした事など、トモキは何も知らないのだ。
アキラはそんな事にも気付かずに、うっかり口を滑らせてしまった事を激しく後悔した。
「トモ……ずいぶんいい性格になったな」
『ゴメンって、笑って悪かったよ。とりあえず……オレとアキ、二人で会うか。仕事何時に終わる?』
アキラの仕事が終わってから会う約束をして、トモキは何事もなかったように笑って電話を切った。
夜7時。
トモキとアユミがユキのサロンを訪れた。
「じゃあ、また後で」
アユミがネイルをしてもらっている間、トモキはどこかで時間を潰すらしい。
トモキは楽しそうに笑ってサロンを後にした。
ユキはアユミをブースへ案内して、ネイルのサンプルを見せた。
「あんまり派手じゃないのがいいんだけど……」
「ああそっか。アユ、先生だもんね。じゃあ……この辺なんかどうかな?」
「あっ、綺麗な色!これがいい!」
アユミは、大人の働く女性に人気のシンプルで落ち着いたデザインを選んだ。
職業柄なのか、それとも子供がいるからなのか、同じ歳なのに、アユミは自分よりずいぶん落ち着いているなとユキは思う。
ユキはハンドマッサージをしながらアユミに話し掛けた。
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