初恋の終わらせ方 ①
お昼過ぎ、ユキがサロンのカウンターの中でぼんやりと窓の外を眺めていると、サロンの前にサトミ宅配便の配送車が停車した。
ユキは運転席の窓をじっと見る。
運転席から降りて来たのは、アキラではなく別の若い男性スタッフだった。
(あ……アキ……じゃない……)
伝票にサインをして男性スタッフから荷物を受け取ると、ユキは小さくため息をついた。
あれから2週間以上経つが、アキラには会っていない。
宅配便のスタッフは別の人に変わり、アキラからの連絡はない。
かと言って、特別用事もないのに自分から連絡することもためらわれる。
あの日、アキラの言葉にショックを受けた。
ずっと友達だと思っていたのに、そう思っていたのは自分だけだったのだと思い知らされた気がする。
『ユキはどうせ……オレのことなんてどうでもいいんだろ?』
『友達ヅラしてんのもそろそろ限界だからさ……もうやめるわ』
(どうでもいいとか友達ヅラとか……なんなの?アキだってなんも言わなかったし、彼女もいたじゃん。……って……そうか、私も同じか……)
中学時代から20年以上もすぐそばにいたのに、アキラの気持ちには気付かなかった。
気が付けばいつもアキラがすぐそばにいて、憎まれ口を叩きながらも一緒に笑っていた。
アキラのことは誰よりも信頼していたし、自分にとって一番の理解者だと思っていた。
いつもアキラがいて当たり前だったのに、もう今までのように笑い合うことはできないのかと思うと、胸にぽっかりと穴が空いてしまったような虚無感に苛まれた。
(何これ……?これからずっとこんな感じ……?)
ぼんやり考えていると、電話が鳴った。
ユキはビクリと肩を震わせて、おそるおそる受話器に手を伸ばす。
「はい……Snow crystalです」
『アユミちゃん ……ああ……今日も世界一かわいいよ。そのニットのワンピース、初めて見るけどすごく似合ってる。でもなんだか元気がないね。僕が慰めてあげようか?』
またいつもの電話だ。
電話の向こうの見知らぬ相手は、日に日に馴れ馴れしくなっていく。
ユキが今日、新しいワンピースを着ている事にまで気付いているらしい。
いつからなのかはわからないけれど、正体のわからない相手に、どこかから今日の服装や表情を見られているのはたしかだ。
(ホントに気味悪い……。一体どこから見てるんだろう……?)
ユキはため息をついて、受話器を置いた。
毎日のサロンへの電話も、自宅ポストへの写真や手紙も、相変わらず続いている。
困った時や不安な時に手を差し伸べてくれたアキラに頼ることはもうできない。
『バカ!!なんかあったらすぐに言えって言っただろう!!』
不意にアキラの言葉がユキの脳裏をかすめた。
(『友達やめる』って、あんなハッキリ言われたら……もう何も言えないよ……)
夕方、ユキのポケットの中でスマホが着信を知らせた。
ちょうど客を送り出して手の空いたユキは、もしかしてアキラかも知れないと思いながら、慌ててスマホの画面を見た。
(アキ?……じゃない……。トモ?)
トモキと連絡先を交換したのは、もうずっと前の事だ。
たしかトモキたちがロンドンから帰って来た直後に、リュウトとアキラも一緒に飲みに行った時だと思う。
連絡先を交換してもメールのひとつも寄越さなかったのに、トモキから電話なんて珍しいと思いながら電話に出る。
「もしもし?」
『あっ、ユキ?今、ちょっといいか?』
「ああ……うん。トモが電話かけてくるなんて珍しいね。どうかした?」
『いや……アユちゃんがユキに会いたいって。予約してないから空いてたらでいいんだけど、ネイルもして欲しいんだってさ』
ユキはパソコンを操作して予約枠の空きを確認をする。
「あ、7時なら空いてるわ。来る?」
『アユちゃん6時半頃には帰ってくるって言ってたし、7時ならなんとか行けそう。その後、一緒に飯でもどうだ?』
「うん、いいよ。じゃあ待ってるね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます