交錯する想い ④

「リュウならさ……芸能人なんだし、もっと大人でキレイな人なんか、周りにいっぱいいるでしょ?」


 リュウトは顔も上げずに尋ねるユキの隣で、少し考えるそぶりを見せた。


「まぁ……いなくはねぇな。実際そういう女、何人かと付き合ったりもしたし……」

「じゃあなんで、よりによって歳の離れた身内のハルなの?」

「なんでだろうな?そんなのオレもわかんねぇよ」

「何それ……。答えになってない」

「まぁ……ハルはずっと、オレのこと好きだって散々言ってたし?この辺でその気持ちを受け止めてやってもいいかと思ったりな」


 リュウトは少し照れくさそうにそう言って、タバコに火をつけた。

 ユキは、ハルが生まれる前からリュウトのことが好きだったのに、一度も好きだと言わなかったことを悔やんだ。


(だったら……もし私が、好きだってずっと言い続けてたら……リュウは私のこと好きになってくれた……?)


「ふーん……ずっと好きだって言い続けてたから……?それだけ?」

「それだけってことはねぇけど……その話はもういいだろ?……ってか……どうした、ユキ?今日はなんかヘンだぞ?」


 リュウトは何も知らないし、ユキの気持ちには気付いていない。

 勇気がなくて告白もしなかったくせに、リュウトを責めるのもおかしな話だと思ったユキは、苦笑いを浮かべながらマナブにグラスを差し出した。


「別に……相手がハルってのが意外だったからさ……。それに……結婚しようと思う人の気持ちが知りたかっただけ」

「なんだ?そんな相手がいんのか?」

「いるよ……。そろそろ結婚のこと考えていこうって言われた」


 ユキがマナブからおかわりを受け取ろうとすると、その後ろからアキラが手を伸ばしてグラスを取り上げた。


「オイ、オレの席でクダまいてんじゃねぇ」

「いいじゃん……。私もリュウと話したかったんだよ。ってか私の酒、返せ」


 いつもよりずいぶん飲むペースが早く、既に酔っている様子のユキを見て、アキラは眉をひそめた。

 そしてマナブに水を頼んでそれを受け取ると、水の入ったグラスをユキに差し出した。


「飲むならもっとゆっくり飲めよ。とりあえずホラ、水飲め」

「うるせぇな……小姑かっての……」


 ユキは差し出されたグラスを受け取り、渋々水を飲んだ。

 アキラはユキの席に座り、ユキの横顔を窺う。


(なんか荒れてんな……ユキのやつ……)


 アキラは、電話を終えて席に戻った時にユキが結婚の話をしていたことに動揺していた。

 それを悟られないように平静を装ってみたものの、やはり内心穏やかではない。


「なぁユキ……今の話、マジか?」

「何が?」

「……結婚するとか……」

「あー……うん、言われたよ。サロンのこともあるしどうしようかなーって思ってたけど、18も歳下のハルに先越されんのもシャクだし、やっぱ思いきって結婚するか!」

「えっ?なんだそれ!!」


(そんなつまんねぇ理由かよ!)


 うろたえるアキラの様子を気にも留めず、ユキはまた豪快にジントニックを煽る。


「うん、そうしよ……。悩んでもどうしようもないこと悩んでるのもバカみたいだし……。なんか吹っ切れたわ」

「オイ、ホントにそんなんで結婚していいのか?もっとよく考えろよ!」

「いいじゃん……。私が誰と結婚しようが……関係ないでしょ……」


 ユキはうつろな目をして笑った。


「ダメだこいつ……完全に酔ってる」

「これくらいの酒で酔わねぇっつーの……。まだまだ飲んでやる……」


 そう言いながらも、ユキは頭をグラグラさせている。


「ユキちゃんが酔うなんて珍しいね」


 マナブはカウンター越しに、不思議そうにユキを見た。


「これくらい、いつもなら序の口なんだけどな……。あ、そうか。こいつ今日、あんま調子よくねぇんだ」

「そうなのか?」


 ユキは既にカウンターに突っ伏して眠っている。

 アキラは呆れた様子でため息をついた。


「ユキ、最近ちょっと疲れてんだよ。オレこいつ送ってくわ。マナ、オレとユキの分、ツケといて」

「わかった」

「せっかく来てくれたのにわりぃな、トモ。リュウも、またゆっくり飲もうな」


 眠っているユキを背負うアキラを見て、リュウトとトモキとマナブはおかしそうに笑った。


「アキ……やっぱ小姑だな……」

「いや……オヤジだろ?」

「やっぱ付き合っちゃえよ」

「バカ言うなよ……」


 マナブのいつもの冗談は聞き慣れているはずなのに、アキラはとても複雑な気持ちになった。


(それができたら、こんな思いはしてねぇんだよ……)



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