交錯する想い ③
「トモの奥さん、どんな人?」
カウンター越しにマナブが尋ねた。
「同じ歳で小学校の先生やってる」
「へぇ、先生か!すげーな」
トモキの結婚する相手が小学校の先生をしていると聞いて、アキラはおもむろに首をかしげた。
(んん?リュウとユキの小学校の同級生で、名前がアユミで、小学校の先生やってて、ロンドンに行く前のトモと付き合ってた……?その時トモは大学生で……トモと同じ歳ってことは彼女もその時は大学生で、小学校の先生目指してたわけか……?ってことは……!)
あの頃リュウトが片想いしていた相手と、トモキの彼女が同一人物なのだと、アキラはいまさらながらようやく気付く。
「ああっ!!」
アキラが急に声を上げたので、みんなは驚いて一斉にアキラの方を見た。
「なんだよアキ!!急にでけぇ声出すなよ!!」
「すまん……」
アキラは慌てた様子でビールを勢いよく煽った。
「アキ、どうかした?」
ユキが不思議そうに尋ねた。
「いや、なんちゅうか……なんだか今日は、やけに衝撃の事実が多すぎて……」
リュウトになんの断りもなく、勝手にユキに話すのはどうかと思ったアキラは、曖昧に言葉を濁した。
「衝撃の事実って……」
「あー、いや……。なんでもねぇ」
(あの頃リュウが片想いしてた相手がトモの彼女だったとか、衝撃の事実だろ!!しかもお互いそれに気付かねぇまま終わったのか?!)
「なぁ、リュウ……」
黙っていようと思ったものの、アキラはどうしても気になって、隣に座っているリュウトに小声で話し掛けた。
「ん、なんだ?」
いざ尋ねようとすると、やっぱり昔のことはそっとしておくべきかと、ためらってしまう。
「あのさ……。いや、やっぱいいや」
リュウトはその言いづらそうな表情で、アキラが何を聞きたかったのか察したらしい。
「あー……なんだ、あの頃のことか?」
「まぁ……そうだな……。もしかして……」
「察しの通りだ。オレはなんにも知らずに、トモの彼女に片想いしてた。結局、オレのせいで二人が別れることになっちまったんだけどな……。それも2年くらい前に、トモに聞くまで知らなかった。トモはオレがロンドン行ってしばらくしてから気付いたのに、11年も黙ってたんだとさ」
昔のことは昔のこととして受け止めているのか、リュウトは事も無げにさらりとそう言った。
「そうか……。なんか複雑だな……」
「たしかにビックリしたし、かなりヘコんだ時もあったけどな。今は、どんな形でもトモたちが幸せならそれでいいと思うし、幸せになって欲しいと思ってる。それに、今のオレにはハルがいるしな」
「それはノロケか……?リュウ、いつの間にそんなこと言うやつになったんだよ……。ノロケたくなるほど幸せなのか……?」
「何言ってんだ……」
リュウトはノロケている自覚がないのか、アキラに指摘されてばつが悪そうにしている。
昔のリュウトは『ノロケ話ほどアホらしいものはない』と、よく言っていた。
(リュウ、昔は『来るもの拒まず、去るもの追わず』で、本気で誰かを好きになったりしないって言ってたのに……人って変わるもんだな……)
ユキはアキラの隣で、耳をそばだててアキラとリュウトの会話を聞いていた。
周りが騒がしい上に、二人の会話する声が小さいので全部は聞き取れなかったが、リュウトがロンドンに行く前はアユミを好きだったことと、今はハルがいて幸せだと言うことだけはわかった。
(盗み聞きなんて、我ながら趣味悪いな……)
二人の会話をこっそりと聞いてしまったことに、ユキは少しの後ろめたさを感じた。
だけどそれよりも、リュウトの心の中にはいつも自分以外の誰かがいて、一度も恋愛の対象としては見てもらえなかったのだろうと思うと悲しかった。
ユキは勢いよくジントニックを飲み干して、カウンターの中のマナブに向かってグラスを突き出した。
「マナ、おかわりちょうだい」
ユキがタバコに火をつけると同時に、アキラのスマホが鳴った。
アキラは着信画面を見て立ち上がる。
「ちょっと電話出てくる」
電話の相手はきっとカンナなのだろうと思いながら、ユキはおかわりを受け取り、また勢いよくジントニックを煽る。
「ユキ、ペース早すぎねぇか?」
リュウトがユキの飲みっぷりに驚いて声を掛けると、ユキは空いているリュウトの隣のアキラの席に座り、ジントニックを一気に飲み干して、大きく息をついた。
「オイ……大丈夫か?」
「ねぇ、リュウ……」
「ん?なんだ?」
「なんでハルだったの?」
「なんでって……」
思わぬことを尋ねられ、リュウトはうろたえている。
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