頼って欲しい ②
受話器を戻して、アキラはユキの方を見た。
「こんなことずっと続いてんのか?」
「……うん」
ユキは力なくうなずいた。
「家の方は?」
「仕事の帰りに後つけられたりとか……変な手紙とか写真とか、毎日ポストに……」
「バカ!!なんかあったらすぐに言えって言っただろう!!」
アキラの声を聞き付けたミナが慌てて奥から駆け付け、アキラの腕を引っ張った。
「アキ、ちょっと……」
ミナはアキラをサロンの裏に連れて行くと、ここ数日のユキの周りで起こっていることを話した。
前の無言電話に関しては、サロンの予約をしようとしていた新規の客が、ためらって切ってしまっただけだから大丈夫だとユキは言っていたそうだ。
しかしその後からは、無言電話だけでなく『好きだ』とか『今日もかわいいね』などと言う電話が頻繁にかかってくるようになったらしい。
「誰だってそんなことが続きゃ参って当然だよな。なんとかならねぇもんか……」
「私が出る時は普通の予約とか問い合わせの電話なんだけど……。私もずっと電話番してるわけにもいかないし、本当のお客さんからの電話かも知れないから、出ないわけにもいかないでしょ?」
電話の件はどうすることもできず、ミナも困っているのだろう。
ミナはカウンターの中でうつろな目をしているユキを気の毒そうに見ている。
「そうか……」
「そういえば…昨日なんか『やっとあの男と別れたんだね』って言われたんだって」
「あの男って?」
「アキのことみたい。最近会ってなかったんでしょ?」
「ああ……。たしかに会ってなかったけど……」
ミナの話によると、3日前ユキが自宅に戻ると、アキラと二人でいる時に撮られた写真が数枚ポストに入っていて、その写真の裏には【浮気は絶対に許さない】と書いてあったらしい。
犯人はユキとアキラが付き合っていると勘違いしていて、ここ一週間ほど会っていなかったことを知っているようだ。
ユキが四六時中誰かに見張られていることは間違いない。
「ユキのやつ、なんで黙ってんだよ。なんかあったらすぐにオレに言えって言ったのに……」
こんな時にユキに頼ってもらえないことが情けなくて、アキラは拳を握りしめた。
ミナはためらいがちに口を開く。
「アキには黙っててって言われたんだけど……ユキがね……アキには迷惑掛けたくないって」
意外な言葉にアキラは顔をしかめた。
「なんで?」
「アキ、彼女いるんでしょ?」
また予想外のことを言われ、アキラは少し戸惑った。
「ああ……そうだな」
「アキがユキの心配して掛かりっきりになると、彼女が不安になるからダメだって」
「なんだそれ?」
「彼女から聞いてない?一週間くらい前に、アキの彼女がお客としてここに来たんだよ。ユキが担当したんだけど……その時に彼女と何か話したみたいで」
アキラはカンナがネイルをしていたのを思い出し、ユキと会うためにここに来たのかと頭を抱えた。
「ユキ、なんか言ってた?」
「うーん……。どんな話をしたとか詳しくは言わなかったけど、アキと彼女の邪魔はしたくないって言ってた」
「……そっか」
何日かアキラの家にいるつもりで来たはずのユキが、翌日の晩に突然自宅に帰ると言い出したのは、これが原因なのかも知れない。
どれほどユキを想っても、ユキにとって自分は友達でしかないのだと、改めて現実を突きつけられたような気がした。
「警察には相談とかしてないのか?」
「うん。私も言ったんだけど、ユキが『警察は信用できないからイヤだ』って」
ヤンキーが若気の至りで警察の世話になることなんて珍しくはないが、警察を信用できないと言うようなことがあっただろうかとアキラは少し考えた。
しかしアキラには、何も思い当たる節はない。
「信用できないって……。それでもこのままにしとくわけにもいかねぇだろ?」
「そうなんだけど……。ユキが動かない以上はどうすることもできないから……」
「そうだな……。どうしたもんか……」
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