頼って欲しい ①

 一週間後。

 アキラは荷物を届けるため、配送車でユキのサロンに向かっていた。

 ハンドルを握りながら何度もため息をつく。

 カンナと会った日の朝以来、ユキとは会っていない。


 結局あの夜、アキラはカンナに一度も好きだと言えなかった。

 それをごまかすため、カンナに何度もキスをして、今までにないくらい優しく抱いた。

 カンナを抱いている間も、ユキのことが頭を離れなかった。

 それを気付かれないように、カンナを抱きしめて眠った。

 どれだけ考えないようにしようとしてもユキのことばかり考えて、それをごまかすためにカンナに優しくしているずるい自分がイヤだった。

 翌朝は仕事に行くためにカンナと二人でアキラの部屋を出て、次に会う約束をして別れた。


 カンナを大事にしようと思うほど、何に対する後ろめたさなのか、ユキとは顔を合わせづらい。

 何事もなかったような顔でいつも通りにしていようと思いながら、アキラはユキのサロンの前に配送車を停車して、荷物を手にまたため息をついた。


(あんま会いたくねぇけど……仕事だからしょうがねぇな……)



 サロンの中に入ると、ユキはぼんやりした様子でカウンターの中に座っていた。

 ユキの顔を見た途端、鼓動が急激に速くなるのをごまかすように、アキラはできるだけいつも通りに声を掛ける。


「こんにちはー。サトミ宅配便でーす」

「あっ……アキ……。ごくろうさま」


 アキラにはユキの顔がどことなく疲れているように見えた。


「どうした?調子でも悪いのか?」

「うん……そんなことはないけど……」


 ユキは曖昧な返事をして少し笑って見せた。

 そんなことはないと言いながら、ユキの目の下にはうっすらとくまができて、なんだか少しやつれているような気がする。

 アキラは伝票を差し出して、目の下を指さした。


「目の下、くまができてんぞ。寝不足か?」

「うん……。化粧で隠したつもりなんだけどな。そんなに目立つ?」

「ああ。どうした?なんかあったか?」

「いや……大丈夫。遅くまで新しいネイルのデザイン考えてただけだから」


 ユキはそう言いながら伝票にサインをして、アキラに手渡した。


「あんま無理すんな」

「うん……」


 やはりユキの様子がおかしい。

 いつもは新しいネイルのデザインを考えて寝不足になっても、ユキは好きな仕事だから平気だと言って楽しそうにしている。


「なぁ……」


 その時、アキラの言葉を遮るようにサロンの電話が鳴った。

 ユキはビクリと肩を震わせ、顔を強ばらせておそるおそる受話器に手を伸ばした。


「はい……」


 ユキはサロンの名前を言うことなく受話器を置いた。


「おい、今の……」

「切れてた。間違い電話かな……」

「ユキ、もしかしてまだ……」


 また電話が鳴った。

 ユキは再び受話器を取って耳にあてる。


「はい、Snow crystalです」


 今度は切れてはいないようだ。

 アキラは予約の電話だったのかと思ったけれど、やはり違うとすぐに気付いた。

 ユキはサロンの名前を言ってから、無言で受話器を握りしめている。


「……もしもし……?」


 そう呟いてからユキは目を見開いて、慌てて受話器を置いた。


「ユキ、今のなんだ?」

「……なんでもない」


 また電話が鳴り、ユキは思い詰めた表情で受話器を手に取った。


「はい、Snow crystalです……」


 ユキは受話器を耳にあてたまま、涙目になっている。


「貸せ」


 アキラはユキの手から受話器を取り上げ、耳にあてた。


『今日もかわいいね。でも肌の露出はもう少し控えた方がいいよ』


 アキラの耳に、ボイスチェンジャーを通したと思われる機械的な音声が聞こえた。


「おい!オマエ誰だ!!なんのためにこんなことしてやがる!!」


 アキラが怒鳴ると電話は切れた。


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