どんな理由で ②
ユキが化粧品や着替えなどをバッグに詰め終わると、二人でアキラのマンションに向かった。
元々は二人とも実家で暮らしていたが、ユキは2年前に、母親が再婚するのを機に実家を出た。
アキラも5年前に兄が結婚して、両親と実家で同居することになったのを機に、実家を出て一人暮らしを始めた。
二人とも実家を出ても生まれ育ったこの街に愛着があるので、自然と実家からそう遠くない場所に部屋を借りた。
若いうちにいきなり海外に行ってしまった、リュウトとトモキの二人とはえらい違いだと、アキラは常々思っていた。
一体どうして、この街にいることにこんなに固執しているのか。
今より少し若かったあの頃は、その理由が自分でもよくわからなかった。
だけど歳を重ねた今になってひとつだけ言えるのは、それまでの自分を
(あー、そうか……。 アイツらと違って、オレは夢をあきらめたからなのかもな……)
アキラはマンションに着くと、とりあえず不審な者はいないか辺りを見回した。
見えない敵がユキをストーキングしているなら、ユキと頻繁に会っている自分の住まいも知られている可能性はあるし、ユキとの関係を勘違いされて、いきなり襲いかかられても不思議はない。
念のため、部屋に入って異常はないか確認したが、特に変わったところはなさそうだ。
「うちは大丈夫そうだな」
「うん」
アキラはとりあえず気を紛らすために、冷蔵庫からビールを2本取り出して、1本をユキに差し出した。
「ほれ。飲み足りなかったんだろ?」
「んー、ああ、そうだね」
棚の中から適当につまみを取り出してテーブルに広げ、二人でビールを飲んだ。
(なんかよくわからん事態になったけど……今はユキを守ることが先決だ)
間違ってもおかしな気は起こさないでいようと、アキラは自分を戒める。
「とりあえずな……しばらくはここにいろ。明日からオレが送り迎えするから、勝手に動くなよ。あと、なんかあったらすぐオレに言え」
「そう言われても……それだといくらなんでも、アキに迷惑掛けすぎだと思うんだけど」
もしストーカーにこの場所を突き止められて襲われたとしても、返り討ちにしてやるくらいの自信が、アキラにはある。
それなりに歳は取ったが、タイマンのケンカになれば負ける事はないだろう。
「大丈夫だ。つまらん心配すんな」
アキラはいつものように笑って、ユキの頭をグシャグシャと撫で回した。
そのはずだったのに、ユキの髪の柔らかさや、頭を撫でられたときの少し照れくさそうな表情が、理性を過剰に刺激して妙に照れくさくなり、戸惑ったアキラは話題を変える事にした。
「それより……このこと、彼氏には言っとかなくていいのか?」
「うん……。どうせ連絡もないから、しばらくは会う予定もないし……。会いに来るって言ったらうちに戻れば……」
ユキには彼氏がいるとわかっているつもりだが、アキラはユキの言葉を聞きながら、どうしようもないほどの苛立ちを覚えた。
(なんだこれ、なんでオレはこんなにムカついてんだ……?オレはバカか?そもそも、オレとユキは友達なんだぞ?)
ユキの彼氏にヤキモチを妬くなんて、自分にもカンナがいるわけだし、よく考えたらおかしな話だ。
アキラは、もうこんなバカらしいことを考えるのはよそうと、勢いよくビールを煽った。
「私のことよりさ……アキはいいの?」
ユキの問い掛けの意味がいまいちよくわからなくて、アキラは少し首をかしげながら眉を寄せる。
「は?何がだ?」
「一応私も女だしさ……理由はどうあれ、泊めたりしたら、彼女、怒るんじゃない?私は彼氏が女友達を部屋に泊めたりしたら、『何もない』っていくら言われても疑うし、すごくイヤだけど」
ユキの言うことはもっともだ。
自分だって逆の立場なら、めちゃくちゃ怒るだろうとアキラは思う。
とは言え今は状況が状況だし、カンナに余計な心配を掛けるよりは、黙っていた方がいいような気もする。
(ってか……カンナも嫉妬したりすんのか?)
アキラはタバコに火をつけて、少し首をかしげた。
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