大学生たちの悩み

「そういえば二人は結婚のこととかって考えているのかな?」

「ブフッ!」


 先輩が急に聞くものだから思わずコーヒーを吹きそうになってしまった。 とりあえず口に残ったコーヒーを飲み込んで気持ちを落ち着かせる。


 なぜ急にそんなことを俺たちに聞いてきたんだ? もしかして舞先輩も雄二との結婚を考えているとか……


「うーん、私はできるなら早めにしたいって言ってるんですけどねー」

「え、ちょっと未来さん?」


 未来の返答に舞先輩は何か考えるように俯いた。 少しの間があって顔を上げると、


「やっぱり乙女心としては早めがいいものだよね。 長引けば長引くほど本当に好きなのかが曖昧になってくるというか」


 乙女心とはそんなものなのだろうか。 そう言われると俺もしっかりと未来との結婚を考えなくちゃいけなくなってくるんだよなあ。


 少なくとも大学卒業後と思っていたが早めの方が未来は嬉しいのだろうか。 でもお金のことや未来にとっての複雑な事情もあるわけだし……


 やはり俺も早めに覚悟を決めなくてはいけないのか。 未来にとってそれが一番なのだとしたら俺は迷う気は一切ない。


「でもつっくんが大学卒業まで待てって言うからしょうがなく待ってるんです」

「紗月君もなかなかにひどいことをするねえ。 こんないたいけな女の子を生殺しにするなんて」


 舞先輩にまでそう言われてしまうと言葉も出ない。 俺は現実逃避するように窓の外を見た。


 外は真っ暗になっていて街灯もあるはずなのに何も見えない。 あれ、おかしくないか? もう一度よく見てみるとそれは暗くなった街並みではなく窓にぴったりと張り付いたゴリラだった。


 ゴリラはこちらを食い入るような目でのぞき込んでいる。 あ、目が合った。


「紗月よぉ、何楽しそうに舞先輩と話してんだぁ?」


 ドアを開け荷物をいったん店の裏に運び、石鹸で手を洗うとゴリラは俺たちのいる席までやってきた。 意外と几帳面だなと感心しつつ隣に座ってきた雄二に話の内容を伝えた。


「そういうことか。 それで紗月的にはどうなんだ?」


 俺的には、か。 結婚自体はしたいと思うが大学生で結婚って世間体的にはどうかと考えてしまうものだ。


「結婚したいかと聞かれればしたいけど、まだその時期じゃないというか……」

「まあ悩むのも無理はないよね。 私たちはまだ大学生なんだし」


 だからこそ早めにという考えにも頷ける。 これからどんどん就職などで世界が広がっていくんだから安息となる場所も必要だし何より働くのにもモチベーションが上がるからな。


 はあ、どうしよう。



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