大学生と電話受け
高層ビルが立ち並ぶオフィス街。 その一角にあるビルに俺と未来は入っていく。
「結局来ちゃったな……」
「私までついて来ちゃっていいの?」
森さんに電話をもらった後、詳細をメールで送ってもらったところ未来までバイトをさせてもらえることになったのだ。 それでさっそく編集部に来ているわけなんだが。
「あんまり騒ぐんじゃないぞ。 それと常に敬語を忘れないようにな」
ラフに話しかけたら実は大物作家だった、なんてこともざらにありうるからな。 俺みたいな、ましてやバイトが敬語をおろそかにするなんてありえない。
そういうわけで俺はものすごい緊張してエレベーターに乗り込んだ。 中は普通の雑居ビルのようだが編集部のフロアだけ雰囲気が違うんだよなあ。
「あ、海竜先生! お待ちしてました!」
編集部のある階層までたどり着きエレベーターが開くと森さんが立っていた。 今日は金髪をポニーテールにしていていかにもOLといった風貌だ。
「こちらこそお誘いありがとうございます。 役に立つかはわかりませんがよろしくお願いします」
未来も俺に続いてぺこりと頭を下げた。 すると森さんは焦ったように、
「そんな! 頭を上げてください! こちらの方が助かっているのに!」
「でも…… 本を出させてもらってるだけでもありがたいのにバイトまで紹介してくださるなんて感謝してもしきれないですよ」
森さんは少し困ったように笑った。 このままだとお互いにお人好しの無限ループに陥ってしまいそうなので俺が切り出す。
「それで今日は何をすればいいですか?」
未来もいることだしあんまり難しい作業じゃないといいんだけどな。 それに俺だって不器用さなら誰にも負けないくらいだしお手柔らかに頼みたいところなんだよな。
「海竜先生と未来さんには電話受けをしてもらいたく…… 電話受けとはいっても編集部にかかってきた電話を担当まで繋ぐ中継的な感じですから」
「わかりました。 一応編集部の番号表を見てもいいですか?」
俺は森さんから編集部の見取り図とともに電話の内線番号が書かれた紙をもらった。 これがなければ話にならない。
電話受けは初めてだがこれなら俺にも問題なくこなせるだろう。
プルルルルルル
「早速電話が来たみたいなのでよろしくお願いしますね!」
森さんがそう言ったので俺は一回目のコールの時点で電話に出る。
「こちら○○文庫編集部です」
「印刷所の涌井です、鈴木さんっていらっしゃいますか?」
「いつもお世話になっております。 鈴木ですね、すぐにお繋ぎします」
俺は電話を保留にした後、さっき貰った内線の番号の通り編集部の鈴木さんに繋げる。
「鈴木さん! 印刷所の涌井様からお電話です」
ふう、とりあえずこんな感じだろう。 前にドラマで電話受けのシーンを見ていて良かったな。
「海竜先生、是非うちに来てください」
ただ電話受けをしただけなのだが森さんと未来だけでなく、周りの編集部の人たちまで俺のことを驚きの視線で見ている。
えっと、内定ゲット?
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