大学生と平凡な朝

「ふあぁ、よく寝た」


 まだ眠い気もするが外からお日様の光がチラチラと入ってきていたので起きることにした。 隣には人一人分のスペースが開いておりほんのり温もりが残っている。


 ベットから降り、部屋を出ると味噌のいい匂いが漂ってくる。 未来が朝ごはんに和食なんて珍しいなと思いつつ顔を洗うために洗面所に向かう。


「つっくーん、ご飯できてるよー」

「今行くー」


 顔を洗い目もしっかり覚めたことだしご飯を食べて原稿を仕上げるとしますか。


「どう? 朝からお味噌汁を作ることになるとは思ってもみなかったけど……」


 未来は自信がないのか不安げに聞いてくる。 いや、夜とかは普通に味噌汁作ってるじゃん。


「うん、美味しいよ。 たまには朝に和食もいいかもね」

「良かったー! 私的にも洋食の朝ごはんって作ってる感じがあんまりしないからいいかも!」


 ぱあっと顔を明るくした未来が言う。 確かに洋食だとトーストを焼いて卵とハムを炒めるくらいだもんな。


 これくらいなら俺にでもできる。 というか誰にだってできるだろう。


「未来は今日はどうするんだ?」

「うーん、特にないけど…… とりあえず課題でも進めようかな」


 あ、すっかり忘れていた。


「もしかしてつっくんも終わってない感じ?」

「いや、大方は終わっているんだが一つだけな」


 その一つと言うのがまた厄介なもので、文学とは言えどオペラについての論文を書かなくてはいけないのだ。


 そもそもなんでオペラが文学なんだって疑問もあるが課題なのだからしょうがない。 かといって俺がオペラなんて見たら間違いなく途中で寝てしまう未来が見えるし……


「もしかしてつっくんもオペラのやつに躓いてる?」

「ああ、こうなったら動画サイトで適当に曲を決めてそれを書くか」


 他に方法もないんだしこれでいいだろう。 流石にコピペはばれたら単位ごとなくなるのでするはずもないが概要などは参考を探してみるとしよう。


 プルルルルルル


 朝ごはんを食べ終わり食器を片付けたところでスマホが鳴った。 画面には非通知と書いてあるが父さんたちかもしれないので出る。


「もしもし」

「あ、海竜先生でお間違えないですか?」


 どこかで聞き覚えがある声だなと思ったがいまいち顔と名前が出てこない。


「こちら編集部の森です! 朝早くからすみません!」

「森さんでしたか。 えっと何の用で?」


 締め切りまではまだ猶予もあるし催促の電話ってわけでもなさそうだ。 じゃあ一体何なんだろう。


「今回の原稿が上がったらでいいのですが編集部が人手不足でバイトを探しているんですよ…… それで海竜先生にどうかとお聞きしたく……」

「え!? 編集部でバイトですか!?」


 ものすごく嬉しい誘いではあるんだが俺が行って大丈夫なんだろうか。 人並外れた不器用さを持っているのに加えて人見知りなのに……


「とりあえず考えておきます」

「はい! 是非前向きに検討の方よろしくお願いしますね!」


 うーん、どうしよう。


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