大学生とバイト

「ではお繋ぎいたしますので少々お待ちください」


 電話受けにも慣れてきて動きがよりスムーズになってきたなと思っていると、


「海竜先生、お疲れさまです。 本当に学生さんですか……?」


 編集部の人が俺のいるデスクにペットボトルのお茶を置き苦笑いをしながら話しかけてくれた。


「ありがとうございます。 僕はただ電話受けの真似をしているだけですよ」

「それでもその歳で色々とできるんだから大したものだよ」


 そう言うと自分の持ち場に行ってしまった。 俺は貰ったペットボトルのキャップを開け、お茶を飲んだ。


 ずっと喋りっぱなしだったので冷たい麦茶は喉に染みる。 未来も同様にペットボトルの緑茶を飲んでいる。


「海竜先生ー、お疲れ様ですー!」


 一息ついていると森さんが俺のデスクまでやって来た。 外回りをしていたらしく額に汗がにじんでいる。


「森さんこそお疲れ様です。 こんなに暑いのに外回りなんて大変ですね」

「ほんとですよ! なんでみんな海竜先生みたいに締切を守らないんですかね!」


 どうやら担当している作家さんに催促をしに行っていたようだ。 それにしてもほかの作家さんは締切を守らないのか……


 俺の場合過去に一回だけ破ったが罪悪感で押しつぶされそうになったよなあ。 やっぱり俺は計画的にやるしかないか。


「それに海竜先生は可愛くてかっこいいですし……」

「へ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。 こんなに美人な人に可愛いだのかっこいいだの突然言われたら誰だってこんな声を上げてしまうだろう。


「突然何を言い出すんです!?」

「ああ、すみません。 昔から思ったことを直ぐに言ってしまうもので……」


 えへへと笑う森さんに不覚にも可愛いと思ってしまった。 隣を見るといつの間にか未来がいて光を失った目でこちらを見ている。


 いや、怖いって。


「つっくん? どういうことかな?」

「どうもこうも森さんとお疲れ様ですと言っていただけだけど……」


 少し照れたように森さんもそうなんですと付け加えた。 彼女も彼女で恥ずかしかったのだろう。


 その後、森さんから今日はもう大丈夫と言われバイト代の入った封筒を貰い編集部をあとにした。


「自分で働いて給料が貰えるっていいな!」

「つっくんは高校から稼いでたんじゃ……?」


 確かにそうだ。 でもこうして自分の身を使って仕事をするのとただパソコンに向かって言葉を綴り続けるのとでは話が違う。


 やっぱり疲れてもらう給料の方が仕事をした感があっていいものだ。


「それじゃあ帰ろうか」

「うん!」

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