大学生とデザート

「んまぁ! こんなうまいパエリアなんて初めて食ったぞ!」

「どうも、お粗末様なこった」


 口いっぱいに広がる海鮮の出汁がきいたご飯に身がぷりっぷりの海老。 トマトやパプリカのほのかな甘みもいい味を出している。


 正直言ってスーパーの食材で作れるものとは思えない。 もう一度、もう一度とパエリアをスプーンですくっては口に運ぶ。


「そんながっつかなくてもおかわりはあるぞ、海竜先生」

「そりゃがっつくさ。 未来のご飯で舌が肥えていると思っていたが、こんなにうまいものを食べたら勢いもよくなるって」


 未来も食べながらふんふんと頭を縦に振った。 どうやら未来も気に入ったようで俺のようにがつがつと食べていく。


「やれやれ、喉に詰まらせるンじゃねーぞ」


 日向が呆れたように食べ始める。 俺はキッチンに行き空になったお皿にパエリアを入れて席に戻る。


 今度は日向が言っていたパエリアに似ているのも食べてみる。


「ん! これもうまい! なんだっけアデウアだっけ?」

「フィデウアな。 ちなみに私の家はパスタの代わりにマカロニなんかもいれたりするぞ」


 今度未来に言って作ってもらおう。 このフィデウア? はパエリアよりも海鮮の出汁が濃くてイカや白身魚が入っている。


 どちらもすぐに食べ終えてしまうと日向が冷蔵庫からカップを取り出してきてテーブルに置いた。


「えっとこれは?」

「アロン・コン・レチェだぞ」


 日向が呪文を唱えたので俺はポカンとしてしまう。 なんだそれ?


「えっともう一回」

「アロン・コン・レチェ」


 うん、知らん。 なにそのレスリング選手みたいな名前。


 カップの中を覗くと白い粒々の塊の上に茶色い粉がかかっている。 見れば見るほど何か分からなくなってくる。


「分かンねえ、って顔してンな。 アロン・コン・レチェっていうのは簡単に言うと米で作るプリンみたいなもンだ」

「え、お米でプリン?」


 そんな斬新なアイデアのデザートがあるんだろうか。 名前からして海外のデザートっぽいし日向の思いつきってわけでもなさそうだ。


「じゃ、じゃあいただきます」

「おう、私も初めて作るから感想よろしくな」


 不安がさらに増えたが意を決してスプーンですくった白い粒を口に入れる。 すると軽くヨーグルトのような風味が鼻を通りあとからふやけたコーンフレークのような穀物系の味がする。


 おかゆのような見た目からは想像できないクリーミーな味に一口目で固まってしまった。


「その様子だと成功っぽいな」

「これめっちゃうまいぞ! いつの間に作ったんだ?」


 日向は未来にパエリアの作り方を教えていたはず。 けどこれが出てきたときは未来も驚いていた。


「未来ちゃんが下ごしらえしている間にちょちょっとな」

「御見それしました」


 俺もあとでこれの作り方教えてもらおう。 そう思ってもう一すくい、アロン・コン・レチェを口に放り込んだ。

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