大学生とスペイン料理

「とりあえずこンなもンかな」

「結構買うんだねー」


 山盛りになったかごを見て俺はうなだれた。 ただでさえ夏は食費がかさんでいるというのにこの量を買うとなるとお茶漬け生活が目に見えるようだ……


 未来と日向は迷わずにレジに並んでしまった。 生活費が入った共同の財布は未来が持っているため俺が何か言うこともできずに今後の食生活について考えていた。


 こうなったら雄二にたかって食費を浮かせるとか……


「はいよ海竜先生、レシートだ」

「これで今月はお茶漬け…… って、え?」


 長々と食材が書かれたレシートには合計で二千円と書かれていた。 数のわりに金額が少なくて俺は驚いた。


 日向ってこんなところまで気が回るのか。 本当によくできた子だよなあ、口調以外。


「なんか失礼なこと思ってるンじゃねえか?」

「気のせいだと思います」


 袋に詰めた野菜もろもろを日向と未来から受け取りスーパーの外に出る。 午前中だというのにもう暑い。


 俺もそろそろ車の免許とかとるべきなんだろうか。 運転ができればこんなに暑い夏の日でも涼しく買い物や編集さんとの打ち合わせにも行けるんだよなあ。


「車、買うか」

「え、つっくん車買うの!?」


 俺のいきなりの発言に驚いたのか未来が素っ頓狂な声を上げる。 日向も驚いたようで目を見開いて俺のことを見ている。


「海竜先生、誰を轢く気なンだ?」

「おいちょっと待て」


 なんで俺が人を轢く前提なんだよ。 俺ってそんなに私怨抱えているように見えるのか?


 俺は帰り道に汗を流しながら、未来と日向に車の必要性について語りながら家に戻った。 全く我ながら何をやっているんだろう。


 家に着くと日向と未来が下準備をし始めたので俺は大人しくリビングで執筆していることにした。 キッチンから時折聞こえてくる楽しそうな笑い声とノートパソコンのキーボードを叩く音が相まってとても集中できる。


「……っくん、つっくんってばー」


 ノートパソコンの画面に集中していると耳元で声が聞こえた。 振り返ると俺の顔の近くに未来の顔があった。


 集中しすぎて声が聞こえていなかったらしい。 俺はデータを保存しパソコンを閉じる。


「その集中力は流石は作家と言ったところだな。 私もよく朝まで描いちまうことがあるンだよな」

「流石は腐敗系だな」

「うっさいわ、ラブコメ作家が」


 未来が困った顔を浮かべている。 パエリアもできたみたいだし、とソファから立つとテーブルに乗っている美味しそうな食べ物たちが目に入った。


 パエリアに加えて…… なんか似ているのもある。


「日向、これはなんだ?」

「それはなあ、フィデウアって言うパエリアのご飯をパスタに買えたもンだ」


 そんなものまで知っているのか…… こういうところはお嬢様なのかよ……


 さて、いい匂いもすることだし食べるとしますか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る