大学生と料理上手

「それで誰から俺の家の住所を聞いた?」


 温かいご飯とみそ汁を交互に食べながら俺の横に座っている日向に聞く。 日向は未だにエプロンを着けたままで新妻気分なんだろうか。


「えっと、それはだな……」

「メナージュか」


 見事に図星だったようで日向は申し訳なさそうに上目遣いでこっちを見た。 俺はそれにときめいて、的なことはなくこっちを見ている日向のおでこにデコピンしてやった。


「あ、いってぇ! 何すンだ!」

「酔ったげく人のベットを使いものにできなくしたのは誰かな?」


 すいませんと言わんばかりに自分のご飯を差し出してくる。 いや、その米俺んちのだから。


 ペロッと舌を出して謝った後、何もなかったかのようにご飯を食べ始めた。 未来はジト目で俺のことを見ながら味噌汁を啜っている。


 気まずいなと思いながらテーブルに乗っているスクランブルエッグに箸を伸ばす。 口に入れた瞬間、卵の甘さが広がりあとから出しの香りが鼻を通る。 正直過去に食べてきた卵料理の中でも一番なんじゃないかと思うくらい美味しかった。


「日向って料理上手かったんだな……」

「失礼だな。 家に来たからわかると思うが家柄上色々と習わされてな」


 それなら納得もいく。 日向の家はお父さんからして厳格そうだし他にも花嫁修業と称して習わされていそうだ。


「なんでヤンキー口調になったんだろうな」

「なンだよ、悪いかよ」


 別に悪くないのだがなぜあの環境でヤンキー口調になったか、またなぜ腐ってしまったのかがすごく気になる。


 今度料理を習いに行きたいところなんだが…… あの親父さんがいる限り怖くて料理に集中するどころではないだろう。


「まあでもこうやって喜ンで食ってくれる人がいるのは少し嬉しいもンだな」

「たまには俺に美味しいものをご馳走してくれてもいいんだぞ?」


 未来も俺を睨むことを忘れ、フンフンと顔を縦に振っている。 未来からもお願いされた日向は少し困った顔をして、


「しょ、しょうがねえな。 だったら今度リクエストでも出してくれよ」


 と、もじもじしながら言った。 その姿にグハッと心を持っていかれかけたが踏みとどまった。


 危ない、未来に殺されるところだった。


「じゃあ、カレ」

「はいはい! 私パエリアがいい!」


 カレーと言おうとすると未来に遮られた。 カレーが食べたいだけなのに……


「パエリア? 別にいいンだがしょっちゅう作る物でもないだろ?」

「いいの! 私が好きだから!」


 好物を言うのなら俺のカレーも言わせてくれよ…… それにしても未来がパエリアが好きなんて三年近く一緒にいるのに初耳だな。


 しょうがない、二人のために買い出しにでも行くとするか。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る