大学生と朝

「海竜先生、朝だぞー。 早く起きねえとご飯抜きにすンぞー」

「んん……?」


 俺は寝ぼけ眼をこすりながらむくりと起き上がる。 いつもとおこし方が違うなあ、と思いながら起こしに来てくれた未来を見る。


 違った。 俺の目の前には薄いピンクのパーカーにエプロンを着けている日向が立っていた。 手にはお玉が握られており空いたドアからはほんのりとみそ汁のいい匂いが漂ってくる。


「何だ日向か…… じゃなくて! 何やってるの!?」

「何って酔った勢いでいきなり家凸した挙句、家に着いた瞬間寝たお礼に朝飯を作ってやっただけだぞ? ちなみに未来ちゃんは一度起きて今はソファで寝てンぞ」


 まだ半分しか動いていない脳を最大限活用し考える。 ああそうか、昨夜に酔いつぶれた日向が家に来たんだっけか。


 それにしてもヤンキーモードで緩い恰好をしていると同棲しているように感じるな。 って何を考えているんだ俺!? いくら寝起きだからと言ってそこまで頑張んなくていいんだぞ?


「なんか悪いな。 あと、着替えてからそっち行くよ」

「おう」


 のそのそと父さんたちのベットから出て俺の部屋に向かう。


「あ、ちょっとそっちは!」

「へ?」


 俺の部屋のドアを開けた瞬間、日向が止めてきたがすでに遅かった。


 脱ぎ散らかされたワンピースに下着、何やらもんじゃ焼きらしきものが付いた俺のベットのマットレス。 そこは地獄のような光景になっていた。


「何があったら一晩でこうなるんだ?」

「お酒の力ってこえーな」


 いや、こうした張本人ですよね?


 こうも綺麗に脱ぎ散らかされていると本来目が行くはずの下着類すらその辺のタオルと同等に感じてしまう。 とりあえず俺はクローゼットから着替えを取り出し未来の部屋に行く。


「着替えるって見ればわかるのに何でついてくるんだ?」

「今後の資料にしたく」

「ご飯の支度してこい」


 はあ、あの部屋どうしよう…… マットレスは買い替えるしかないか。


 俺は寝間着から部屋着であるスウェットに紺のパーカーに着替える。 寝間着を洗濯機に入れ、リビングに行くとテーブルに和食の朝ごはんが並んでいた。


「海竜先生、未来ちゃんを起こしてやってくンねえか?」

「別に日向が起こしてもいいのに。 まあいいや」


 俺はソファからはみ出ている未来の足をくすぐる。


「んん……? ってくすぐったいよつっくん! んっ!」


 妙に艶めかしい声を上げながら悶えるようにして未来は目を開けた。


「海竜先生ってSだったのかよ」

「誤解だよ? いつもは笑い転げてるからね!?」


 変な笑顔を浮かべて日向は椅子に座る。 未来も目をこすりながら自分の席に向かう。


 はあ、とため息をつきながらもいい匂いのする朝ごはんを前に俺は腰を下ろした。

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