大学生と家
「いらっしゃーい! って杏樹ちゃんに紗月くんだー!」
メナージュに入ると舞先輩が出迎えてくれた。 ただし知り合いとわかった途端に友達モードに切り替わるのはどうかと毎回思う。
まあそれは置いておいて、俺と杏樹はいつもの奥の席に向かう。 席にはテーブルを挟むように未来と紅葉ちゃん、それと雄二で座っていた。
「おまたせ、途中で杏樹と合流したから一緒に来たぞ」
「遅いよつっくん。 おかげでパフェを二杯も食べちゃったよ」
未来の前にはクリームの跡が付いた空のグラスが置かれており、紅葉ちゃんも同様に一つ置いてあった。 もちろん雄二のおごりだよな? と言う目でゴリラを見つめながら席に座る。
「早速本題なんだがなんで紅葉ちゃんは家出なんてしたんだ?」
まだ秋穂さんたちとの事件からそんなに時間が経っていないのに何があったのだろうか。 でも今回の秋穂さんの様子から喧嘩とかではなさそうだけどな。
「実は……」
*
「なるほど……」
紅葉ちゃんが言うには未来との蟠りもなくなり紅葉ちゃんのお父さん、すなわち前に未来にうどんの打ち方を教えてくれた親父さんを東京に引っ越させようと言う話だという。
それは長年やってきたうどん屋を潰すことになるので紅葉ちゃんは反対して家を飛び出したとのことだった。
「それで今のところはお店を潰すことになってるのか」
「そうなんです…… あれだけ都会に憧れていたのはもしかしたら逆にあの田舎に愛着があったからかもしれません……」
確かに生まれ育った家とお店を潰すのは気が進まないだろう。 それにあのお店は雰囲気も周りの自然も綺麗だったしなくなるのが惜しい気持ちは分かる。
でも今度こそ他人事であって深くまで介入するわけにはいかないだろう。
「とりあえず家出して反抗するだけじゃなくてしっかりと話し合うことも大事だよ」
現に俺がそうだったみたいにな。 秋穂さんともう少し話し合えていたらお互いに罵り合わずに済んだかもしれない。
「わかりました…… 今日は一旦帰ります。 でもお母さんが一点張りだったらまたこうして家出するかもしれないです……」
「そしたらいつでも言ってくれ! できるだけ力になるからな!」
珍しく雄二が張り切っている。 やっぱり雄二ってロリコンなんじゃないんだろうか。
「おい紗月、勘違いすんなよ! 俺はただ困っている女の子がいたら放っておけないだけだ」
「じゃあ杏樹が困ってたら?」
「特に何もしない」
やっぱりじゃないか…… 今後雄二とは友達付き合いを考えなくちゃな。
「ゆう君? 別に私の彼氏君がどんな好みを持っていようと私は構わないけど、捕まるようなことはしちゃだめだよ?」
笑顔で言う先輩だったが、その目は一切笑ってはいなかった。
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