大学生と全力疾走

「それで紅葉ちゃんが家出したってどういうことなんだ?」


 駅に向かう途中、速足ながらも未来に問いかける。 未来はポケットからスマホを取り出し確認する。


「秋穂さんから連絡があって、お昼に仕事から帰ったら置手紙があって紅葉ちゃんが家出していたみたい。 それで前にもうちに来たのかもってことで私に連絡をくれたってこと」


 その話だとまずくないか? もし仮に紅葉ちゃんがうちに来ていたとしたらもうすでに四時間近く経ってるぞ……


 一応のことも考えてメナージュに連絡を入れとくか。


「もしもし? 注文なら店来てから言えよー」

「雄二、今メナージュに紅葉ちゃんは来てないか?」


 ここですぐに見つかってくれればいいんだけどな。


「紅葉ちゃん? 今日は来てないけど何かあったのか?」

「なんでも家出したらしくてな。 悪いんだが俺の家も見てくれないか?」

「おう、いたらすぐに連絡するわ」


 電話を切り、駅に入り改札を通る。 丁度のところで電車が来たので急いで乗り込み一息つく。


 これで雄二が紅葉ちゃんを見つけてくれればいいんだが……


「つっくん、もし家に来てなかったらどうする?」

「そしたら蘭ちゃんの所を訪ねよう。 蘭ちゃんなら仲も良さそうだったし何か知ってるかもしれない」


 それでもいないとなると……いや、考えないでおこう。 それよりも今は情報収集だ。


「とりあえず俺は杏樹に聞いてみる。 何か知っているかもしれないからな」


 杏樹にマインで紅葉ちゃんのことについて送った。 すぐには既読が付かないため俺は最寄り駅に着くまで待つことにした。


 どうか無事であってほしい。 そう思うと昔にもこんなことがあったような気がする。 確か高校時代に未来が家出して見つかった後に俺が疲労骨折したんだっけか。


「今回は紅葉ちゃんも俺もケガしないといいな……」

「あの時はごめんね……」

「いいんだよ、今ここにいるんだから」


 こうして今目の前に未来がいる。 この事実があれば骨折なんて小さいことだ。


 最寄り駅に着き俺は未来に荷物を託し家へと走る。 運動不足ながらも全力疾走で家の近くまで来た。


「え、紗月か……?」

「お兄、お姉さん……?」


 家の方向から耳にスマホを当てている雄二と紅葉ちゃんが歩いていた。 二人は豆鉄砲でも食らった顔で俺のことを見ている。


 あたりを見ると通行人の人たちも俺のことを見ていた。


「いつからそんなに可愛くなったんですか……」

「あ、そうだった」


 俺は今女装しているのだった。 紅葉ちゃんのことで頭がいっぱいですっかり忘れていた。


 しばらく放心状態でいると大荷物を持った未来がフラフラと歩いてきた。


「もしかして修羅場?」


 いつになく間の抜けた発言をした未来に俺はため息をついて荷物を受け取った。


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