大学生と閉会
「つっくん、これなーに?」
未来が指さしたのは折り畳まれた抱き枕カバーだった。 その絵柄は十八禁イラストで見えてはいけないところには星のシールが貼ってある。
こういうものが普通に並んでいるのがコミケなのだが、こうも堂々と置かれているとあまり知識がない人は驚くだろうなと思いながら未来が手に取ろうとするのを止める。
「それは未来にはまだ早いぞ」
俺と未来はブラブラとブースを回りながら気になったものを買い、また徘徊することを続けていた。 時間が経つにつれ次第に人も減っていき気づけば終了時間である十六時になっていた。
とりあえずサザンドラのブースに戻り、日向と合流する。
「随分と回ったようね」
「気になるものを買いあさっていたらな」
俺の手にはコミケ特有の萌えキャラがでかでかと印刷された袋がいくつも握られている。
好きな作品の同人誌など気になる物は何でも買った。 おかげでもうすでに肩が限界にきている。
「まあ海竜先生も来たことだし、みんなお疲れさま!」
日向が一声かけるとそこらから歓声が上がる。 みんな今日一日を戦った仲間であり同じ志を持った同士である。
俺もハイタッチを求められ笑顔で応える。
「ちょ、海竜先生その笑顔は反則ですって! 一瞬男と忘れて惚れかけましたよ!?」
「もしかしたらまんざらでもないかも……?」
荷物運び等雑用係である唯一の男子がそんなことを言ってきた。 当然ここは腐女子の巣窟、その発言を聞きつけて多くの女子が集まる。
その様子はまるで砂糖に群がるアリの様だったが俺の笑った顔を見るなり、
「あの顔は惚れるわ……」
「私、バイに目覚めそう」
などと呟きながらはけていった。
「えっと日向さん?」
俺は状況が呑み込めず日向に解説を求めた。
「海竜先生ご馳走様、って違うわね。 多分あなたが可愛すぎて腐らせられなかったのよ。 私は余裕だけれどね」
なるほど、今度この格好でメナージュにでも行ってみようかな。 少しでも雄二が変な目で見たらすぐに先輩にチクってやる。
ブースの片づけをしながらこの後の打ち上げの話や今日の感想をサザンドラのメンバーから聞かれていると、
「つっくん! 大変だよ!」
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
未来がいつになく焦って俺のところに走ってきた。 確か未来は会場の端まで段ボールを捨てに行っていたはずじゃ?
「紅葉ちゃんが! 紅葉ちゃんがまた家出したらしいの!」
「なんだって!?」
俺がちらりと日向の方を向くと、目で「行ってきなさい」と言われた。
「とりあえず帰りながら話を聞く。 未来は自分の荷物を持って」
今度は何をしたんだ元気娘よ……
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