大学生とコミカライズ

「コミカライズ……?」

「そうです! ついに海竜先生の作品が漫画になるんです!」


 森さんが言うにはコミカライズ自体はだいぶ前から決まっていたことらしいが今現在空いている漫画家がいないとのことで悩んでいたらしい。


「そこで日向さん! あなたにもお願いがあります!」

「わ、私に?」


 この話の流れから自分に来ると思ってなかった様子で日向は聞き返した。 俺はこの時点でなんとなく森さんの言うことが予想できていた。


「あなたにコミカライズの漫画を描いて欲しいんです! 今回はサザンドラではなくあなた個人への依頼です。 どうか前向きに検討してみてくださいね」

「私個人に、ですか……」


 日向はひとしきり悩んだ上で返事は今後にする、と言ってブースに戻っていった。


 きっと当人も嬉しいんだろうが大学ももうすぐ始まるし色々と心配なことでもあるのだろう。 しかもまだコミケ自体は終わったわけではないんだしな。


「あれは厳しいかもですねー」


 日向がいなくなった分、ベンチに空いた隙間にに森さんが座った。 未来は少し不服そうだが今のところ大人しい。


 俺としても日向に描いてもらえるのならそれ以上に嬉しいことはないのだが彼女はサザンドラをまとめるリーダーであり、一人の大学生。 断る理由はいくらでもあるし、そもそも俺の作品は日向のジャンルではない。


「まあ、成るように成れですかね」

「それを言わせられるように海竜先生も原稿を早く出しましょうね」

「毎回毎回助かってます……」


 と言っても原稿が遅れているのはここ二、三ヶ月だろう? あれ、思ったよりやばい。


 今後は早めに原稿を送ろうと覚悟を決め、俺はベンチから立ち上がる。 そろそろ俺も初コミケを回ってみたいし創作者として学ぶこともあるだろう。


「森さん、今日はありがとうございました。 今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそ末長くよろしくさせてもらえればと思っています。 これからも二人三脚で頑張りましょう!」


 挨拶を済ませ、未来と一緒に会場内を回る。 会場内は人が多くもみくちゃにされるので俺と未来は熱気がこもる中、手を繋いでいた。


 俺が女装をしているからか数人の男達から歓声が上がるが無視して俺は挨拶回りの際に目をつけていたブースにやってきた。


「つっくん、ここの本ってなんか肌色が多い気がするんだけどー」

「気のせいだぞ、今時の本は大体こんなもんだ」


 無言のチョップを食らった。 痛いじゃないか。


 しょうがなく薄い本は諦めて普通の二次創作作品を探すことにした。 気のせいか人混みの中を通るたびに尻を触られている感覚があるが……


 まあいいか、俺は男だし。

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