大学生と金髪

「そろそろ海竜先生は休憩入ってください」

「了解しましたー」


 サザンドラのメンバーに言われて俺は席を立った。 お昼だというのに行列は消えておらず抜けるのが申し訳なく思った。


 ブースの前にいる未来も休憩をもらったのか俺と合流してお昼ご飯を食べることにした。 お弁当は用意されていたのでスタッフカードを忘れずに首に下げてから外に出た。


「どこで食べよっか」

「あんまり長く休憩するわけにもいかないし近場でいい場所でも見つけようか」


 俺は地図をスマホで見て会場近くにある有明西ふ頭公園に行くことにした。 公園には釣りをする人と家族連れ、それに会場から来たであろう人たちがちらほらと見える。


 海がすぐ目の前にあるベンチを見つけたのでれと未来はそこでご飯を食べることにした。


「お昼だけどこうやって海を見るのもいいね」

「お互いにこの姿じゃなければ良かったんだけどな」


 未来は未玖の制服姿、俺は女装と非日常的な格好のため落ち着かない。 けれど並んで海を見ながらお弁当を食べていると自然と疲れが消えていくようだった。


 俺は未来より先にご飯を食べ終わってしまいぼーっと海を眺めていた。


「か、海竜先生!?」


 いきなりの事で驚いたが声のした方を向くと若い女性が立っていた。 しかし髪は金色で顔も日本人とは程遠い顔立ちをしている。


 しかし聞いた限りの日本語は上手いのでおそらくハーフだろう。 その女性は俺を指さし驚いたまま固まている。


「えっと、どうかしました?」


 俺がそう尋ねると女性は焦った風に、


「初めまして海竜先生! 先日から担当になりました森と申します!」

「……ええ!?」


 何と目の前の金髪の若い女性が次の担当編集さんだというのだ。 森、と言う名前からもっと黒髪眼鏡の日向みたいな人かと思っていた……


「そこにいるのは未来さんで間違いないですか?」

「あ、はい。 未来であってますが誰からそれを?」


 俺と森さんはまだ電話でしか話していないしなんで未来のことを知っているんだ?


「豊浜先生からよく話を聞かされていましたので。 仲が良すぎてむしろ姉弟みたいだって言ってましたよ」

「今度会ったら話し合いが必要ですね」


 どうせ佐藤さんのことだ。 他にもいらぬことを吹き込んでいるに違いない。


「あはは…… それよりずっと気になっているんですが海竜先生って確か男性でしたよね……?」

「サザンドラにいる友人に強制されまして……」


 朝からずっとこの格好だったため馴染んでしまって忘れていたが俺は今女装しているんだったな。

いきなり担当作家が女装しているとか森さんからすると驚きだろうな……


「もういっそ女装して生活してみては?」

「……今なんて?」


 気のせい、だよな……?



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