大学生と二人

「それで初音と天音には海竜先生に色々と教えてあげてほしいの」

「いきなり本名で呼ばないでよー」


 先ほど初めて会った二人組の女子が目の前でコスプレをしている。 初めて見たからか、再現度が高いからかは分からないが俺は二人の姿に釘付けになっていた。


「それでー、海竜先生もいじっていいの?」

「ええ、協力すると言った以上もらうわ」


 俺は日向の言うことなんか何も聞いていなかったが突如コスプレ二人組が俺の方を見て悪魔のような顔で笑った。


 先ほどまではドキドキわくわくだったのだが二人の視線を見た瞬間背中に冷や汗が垂れる。


「男の人は初めてだから腕が鳴るわね」

「海竜先生ー、今日は帰らせないよー」


 どこから出したのか分からない衣装の数々を手に持ちながら俺に近付いてくる二人。 気づくと俺は壁まで追いやられていた。


 もうあきらめるしかないか、と思った瞬間、


「つっくん!」


 未来が起きてきて俺と二人の間に割って入る。 いまいち状況が理解できていないのかおろおろと俺の顔と二人の方を見まわしている。


「えーと、彼女さん?」

「そうです……」


 二人は構えていた手を解き、衣装をソファに掛ける。


「海竜せんせーは好きなアニメやキャラクターっていますか?」

「未玖」


 いきなりの質問に焦ったが質問が質問なだけに俺はパッと答えた。 未玖とは俺の小説に出てくるメインヒロインだ。


 まあ基は未来なんだが。


「海竜せんせ…… いくら彼女さんが好きだからって……」

「まあまあ、初音。 それなら彼女さんが未玖の衣装を着る、なんて言うのはどうでしょう?」

「え、いいのか?」


 髪がセミロングな方、天音さんは最高な提案をしてくれた。 未玖は作中で制服姿となっていてイラストレーターさんが細かく描いてくれたため、ごくたまにコスプレをしてくれる人がいるのだ。


「海竜先生があとでコスプレをするって約束していただけるなら衣装を貸しますよ」

「やります! やらせていただきます!」


 俺は天音さんが言い終わるとともに頭を下げた。 だってしょうがないじゃん、推しが推しの衣装を着るんだよ?


「わかりました、彼女さんもいいですか?」

「あんまりよく分からないけど着替えればいいんでしょ?」


 理解が早くて助かるぞ未来。 いや、未玖。


「それじゃあ海竜先生は廊下で待っていてください」


 俺は言われた通り廊下に出る。 カーペットが敷かれた廊下はとても静まっていた。


「君は誰だね?」


 廊下を見渡しているといきなり背後から声が聞こえた。 振り返ると身長が百九十はありそうな大柄な男の人が立っていた。


「日向の彼氏なのか?」


 なぜかその男の人の手には日本刀が握られており、俺は声一つ出せないでいた。

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