大学生と日本刀

「黙っているということは肯定と取っていいのかね?」

「あっ……」


 声を出そうにも気迫に押されて声が出ない。 勘違いだと言いたいが足がすくんで立っているのがやっとの状態だ。


 目の前の日本刀を持っている全身和服の初老の男はゆっくりと刀を振り上げ、上段で構えると俺に向かってーー


「ちょっと親父! なにしてンだ!?」

「日向! ってなんて格好をしているのだ!」


 さっきまで俺がいた客間からメイド服を着た日向が飛び出してきた。 けれど俺は先輩の格好より鼻先で止まっている剣先にしか目が行かずついには腰が抜けてその場に座り込んでしまった。


 本気で殺されると感じたのは初めてで心臓が全力疾走の後のようにバクバクと脈打っている。 頬に汗が伝うのを感じながらようやく俺は声を出した。


「ひ、日向。 このお方は……?」

「ごめンな海竜先生、これが私の親父だ」


 これが日向の親父? え、まじで?


 見た感じ身長や体格も含めて一切似ているところが見当たらないぞ。


「今似てないな、と思っただろう。 そんなことはない。 眉毛の形は似ているのだ」

「親父…… 正直無理があると思うぞ」


 そう言われると日向の親父さんは少し悲しそうな顔をして日本刀を鞘に納めた。 その手つきは慣れていて長年武道をやってきたことが窺える。


 俺は立ち上がり日向に状況説明をしてもらった。


「先ほどは申し訳なかった。 まさかあなたが妻と娘が絶賛している海竜先生だったとは」

「こちらこそ急にお邪魔してしまいすみません」

「いいのだよ。 海竜先生とあれば我が家のように使ってくれ」


 そう言われてもこの家にいる限り落ち着かないんだけどな…… やっぱり金持ちってすごい……


「それで海竜先生ー、こっちは準備できたンだけど」

「ああ、すっかり忘れてた。 今行くな」


 親父さんはいつの間にか消えており、俺は着替えたであろう未来のいる客間に戻った。


「ど、どうかなつっくん」


 扉を開けると恥ずかしそうにもじもじしながら未玖の衣装を着た未来が立っていた。 俺は自分の小説のキャラクターがコスプレとして現実に存在している嬉しさと破壊力のある可愛さによって思考停止状態になっていた。


「おーい、海竜せんせー。 一応私たちもコスプレしてるんだけどー?」


 未来の後ろには某人気アイドル育成ゲームのキャラのコスプレをした初音さんに天音さん、そしてメイド姿の日向が立っていた。


 ここは天国なんだろうか。 もちろん本人たちの可愛さもあるのだがそれ以上に完成度が高く触れたくなってしまうほどだった。


「あ、つっくんが変態さんモードだ」


 失礼な、俺はただこの光景を目に焼き付けているだけなのに。

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