大学生とワンピース

「じゃあ行ってくるね」

「うん、気を付けて」


 空港のターミナル内、国際線の入り口で俺は母さんと父さんに別れを告げていた。


「うわあぁん。 さづぅぎぃぃ!」

「はいはい母さん。 今度帰るときはちゃんと連絡してね」


 泣きじゃくる母さんをなだめつつ父さんと向かい合う。 父さんは落ち着いた顔で俺のことを見ていた。


「次に会うときにはもっと大きくなってるかな」

「それは父さんにも言えることなんだよね……」


 お互いに笑い合う。 こんなやり取りでさえ久しぶりでこの先もあまりないと考えると寂しく感じてしまう。


 でも俺はその感情を顔に出すわけにはいかない。 未来はもっと辛い思いをしてきているのだから。


 当の未来は母さんと手を合わせて何かを話しているようだった。 こう見ると親子にも見えなくもなくて温かい気持ちになる。


「やっぱり紗月は優しい子だよ」

「それも父さんのおかげかな」


 と、照れ隠しになってしまったが、やはり親に褒められるのは嬉しいものだ。


「あ、父さん! 時間!」

「もうそんな時間なのか…… 母さん、もう行くよ」

「うぅ…… 未来ちゃん……」


 あれ? 俺は? まあいいか。


「「いってらっしゃい!」」


 と二人の背中を押してあげる。


「「うん、行ってきます!」」


 二人は息ぴったりに駆けていった。 俺と未来は二人の背中が見えなくなるまでその場に立って見送っていた。


 少しの時間が経ち、もういいかと思って振り返ると、


「今のって親御さん?」

「うわあ! びっくりした……」


 俺の後ろには見知った眼鏡女子がキャリーバッグを片手に立っていた。 夏と言うこともあってか黄色と白のワンピースを着ている。


 いつもの日向と雰囲気が違っていて一瞬誰かわからなかった。 そしてなぜそんな服装をしているのか疑問に思った。


 日向と言えばいつも黒などの寒色系の色ばかりを身に着けていたのに今の格好だとお嬢様のような感じだ。 まあ、まだ会ってから三か月だけど。


「人の顔を見てびっくりなんて失礼ね」

「すまんすまん。 いつもと服装が違ったから誰かわからなくてな」


 俺がそう言うと日向の顔はどんどんと赤くなっていった。 そしてその場で顔を手で隠してしゃがんでしまった。


 俺がそれを眺めていると眼鏡をはずして立ち上がった。 ちなみに未来は眠かったらしく近くのベンチでうとうとしている。


「まじ恥ずかしいンだけど……」


 と、顔を赤らめながら言ってきた。 少しふにゃっとした顔だったので見入ってしまった。


 いや、可愛いかよ。 ヤンキーの照れとか萌えるっつーの。


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