大学生とお金

 秋穂さんが何をしてでも、と言ったところ未来が秋穂さんの頬をピシャリと叩いた。 その場は凍り付き俺は動けないでいた。


「……で、なんでそんなこと言うんですか! 私は他人、そうなんでしょう?」

「それは……」


 未来は涙目になって秋穂さんに問いかける。 今までのことを考えると何も言えないのか秋穂さんは黙り込んでしまう。


「それが答えですよ。 私は家族でもなんでもない」

「違う! あなたは未生みうから託された……」


 未生、未来の実の母親のことだ。 俺は小さい頃に数回会ったことしかないがとてもやさしくて笑顔がまぶしい人だったのを覚えている。


「遺言で押し掛けた迷惑な孤児ですよ。 でもあなたは私に生きる環境をくれた。 幼稚園にも入れてくれた、小学生になっても必要なものは買ってくれた」


 未来はののことを言い始めた。 しかし未来にとってはこれらはすべて善意によるものだと言いたいのだろう。


「私が今、こうやって生きているのもお義母さんがいたからです。 それにそのお金はもっと使うべき相手がいるでしょう?」

「えっ……」


 秋穂さんはあふれる涙を抑えて未来の言葉に疑問を抱く。 未来は優しく秋穂さんに笑いかけ、


「あなたには素敵で親思いな紅葉ちゃんがいるじゃないですか。 そんな娘さんを蔑ろにしてはいけませんよ」

「未来さん……」


 紅葉ちゃんは未来の言葉に驚いき涙を浮かべている。 俺も未来の方を見ると目で、


『二人にしてあげよっか』


 と言って来たので無言でうなずき席を立つ。 リビングを出るときに「ごめんね、紅葉」と聞こえてきたので俺はすっと胸をなでおろし俺の部屋に入る。


 部屋に入ると未来は力が抜けたように俺のベットに倒れこむ。


「ああー、怖かったー」

「お疲れ様、結局俺の出る幕はなかったな」


 実際そうだろう。 俺が喧嘩を売らなければこんなに大事にもなっていなかったしもっと穏便に済ませられたかもしれない。


 そう考えると俺は罪悪感に踏みつぶされそうになる。


「つっくんがいたからだよ。 いつだってそう、つっくんがそばにいてくれるから私は頑張れる」

「大げさだぞ、未来は俺がいなくとも頑張ってきたんじゃないか」


 助けられているのは俺の方だぞ、と言いかけたが飲み込んだ。 これ以上未来に変な気負いはしてほしくない。


 今はゆっくりさせてあげよう。 表には出していないけど未来も相当疲れたはずだ。


「まーねー。 つっくんとは出来が違うのだよー」

「おねむですか。 どうぞごゆっくり」


 未来が眠い時特有の語尾が伸びていくのに気づいた俺はベットで動かない未来に毛布を掛けてやる。


「むふふー、つっくんの匂いがするー」

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