大学生と終わりの始まり

「あの、今日は色々とありがとうございました」


 未来が完全に寝てしまってから少し経ち、秋穂さんが部屋を訪ねてきた。


「こちらこそお宅で汚い言葉を使ってしまい申し訳ありませんでした。 こうやって後から謝罪することをお許しください」

「いえいえそんな! むしろはっきり言っていただいたからこそ自分の愚かさに気づけたので……」


 こうやって話を聞いていると秋穂さんは俺に似ているのかもなと思う。 もっとも俺が同じ環境にいたらどうしているかは考えられないけれど。


「それでやっぱりこのお金は受け取ってください。 元はと言えば未来さんのためのお金ですし私が勝手に使うわけにもいきませんから」


 懐から先ほどの茶封筒を取り出し俺に差し出してくる。 流石に未来が断ったのに俺が受け取るわけにはいかず俺は拒否しようと思った。


「え、そう言われても未来が……」

「いいんです。 これで未来さんに楽しい思いをさせてあげてください。 じゃなきゃ未生に怒られてしまいますから」


 秋穂さんは俺に封筒を握らせ部屋を出て行った。 俺は言葉一つ返せずその場に立っていることしかできなかった。


 あとから紅葉ちゃんがちょこんと顔を出し、また来ますと言い残して二人は家を出て行った。 二人が帰り、一気に家が静かになった。


「一応、一件落着か……?」


 あまりにもあっさりと全てが終わってしまったので何とも言えない喪失感に襲われた。 しかし得たものは喪失ではなく、明るい未来なのだから気に病むことはない。


 今まで張っていた気がプツンと切れたようでで俺もだんだんと眠くなってきた。 丁度そこに俺のベットがある。 寝よう。


 そうして俺はバタッとベットに倒れこみ、睡魔に身を任せた。




 *




「ふあぁ」


 今何時だろう。 外が明るくなってるしもしかして一日寝てたのか……?


 働こうとしない頭をどうにかたたき起こし、寝返りを打つ。


「あ、おはよー」


 目の前には未来の顔があった。 鼻が触れるギリギリの距離でお互いに見つめ合う。


「朝になっちゃったね」

「今何時だ?」

「もう九時だよ」


 そんなに寝てたのか。 昨日、秋穂さんが帰ったのが夕方くらいだったから……


「朝ごはん食べよっか」


 そう言って未来はベットから出てリビングへ向かって行った。 俺は物を考えること放棄し、未来の残り香がある枕に顔をうずめてジタバタする。


 これでようやくなにも邪魔するものがなくなった! あとは大学卒業とともにーー


 ピンポーン


「はーい」


 未来がパタパタと玄関に向かったの聞いて俺は聞き耳を立てる。 こんな朝から誰だろう、面倒なことじゃないといいな。



 俺はその声を聴いた瞬間、ベットから飛び起き玄関に向かった。 なぜならその声が三年ぶりに生で聞くの声のものだったからだ。

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